2018年7月、クレアシンガポール事務所の新たな所管国に加わったスリランカのビジネス環境や市場についてさらなる調査を行うため、シンガポール日本商工会議所主催の海外ミッション「スリランカ視察団」へ参加しました。10月28日(日)から11月1日(木)にかけて聴取した、現地進出企業の状況や市場の魅力についてその内容を報告します。
現地に進出している日系企業約130社で構成されるスリランカ日本商工会からは、実際に現地で感じるスリランカ市場の特徴についてお話を伺いました。ここでは主に、観光産業、海上交通ハブ、消費市場の3分野における際立った可能性を紹介します。
2009年の内戦終結後、スリランカを訪れる外国人観光客は増加の一途をたどり、当時の約5倍に相当する約210万人にまで上る勢いです。まさにその名の由来のごとく「光り輝く(スリ)島(ランカ)」は、海に囲まれ緑豊かな美しい島で、現在、外資系企業をはじめとする多くのリゾートホテルが建設中だそうです。
また、世界のコンテナ船の約3分の1、オイルタンカーの約半分が、このスリランカの沖合を通過するという海上交通の要所であり、この地理的優位性を活かしコロンボ港のコンテナ取扱量も年々増加しています。現在、約600万TEU(Twenty-foot Equivalent Unit)にまで上り、これは世界ランク25位の数量でムンバイや東京港を上回る規模となり、今後ますます海上交通の拠点としての機能に注目が集まっています。
さらに、国民一人当りGDPは 4,000ドルを上回る一方、消費する「モノ」がまだ国内に少ない状況とのことで、日本企業の新たなマーケットしても注目されています。例えば、大型ショッピングモール、コンビニエンスストア、大手通販会社やハイブランドショップ等も、まだ参入しておらず、今まさに競争相手のいない「ブルーオーシャン」市場と言えます。
EXPOLANKAはローカルの物流大手上場企業ですが、佐川急便を傘下に持つSGホールディングスが2014年の株式51%を取得したことにより経営権を獲得し、現在は日系企業として環インド洋を中心に物流ネットワークの拡充を進めています。主に、欧米の大手アパレルメーカーの南アジア(インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ)生産拠点からの荷物が多くを占めている様子でした。物流倉庫は大変きれいに整頓されていると同時に、ITを活用することによりリアルタイムでの出荷管理と目標達成状況がわかるなど、見える化の工夫も見られました。
日本ではじめてファスナー機械製造に成功したYKK(本社:東京都)のスリランカ工場を見学しました。その品質の高さは世界一であることが頷ける品質向上への弛みない努力と品質管理を徹底する現場を間近に体感する貴重な機会となりました。
製品を製造する機械はほぼ全て富山県の黒部工場で生産され、世界の製造拠点に供給されていますが、工機から開発しているところが高品質を維持出来る理由の一つだとのことでした。ファスナー技術は服飾分野以外でも応用されており、例えば、災害テントや青函トンネル、宇宙服やロケット等にも活用されています。世界で信頼を得ている日本企業のものづくりに対する真摯な姿勢に感嘆の声があがると同時に、日本人として誇らしく感じました。
尾道造船(本社:兵庫県、国内造船所:広島県)は、1993年にスリランカ唯一の近代造船所「Colombo Dockyard」を買収し、特殊船や大型客船等を世界中に輸出しています。国内唯一の重工業でありスリランカ国内の産業政策上においても、大変重要な役割を担っています。国内に下請け企業が存在しなかったため、従業員3,000人の内、半数が正社員で残りは下請け機能を社内に取り込み自社で全て完結する仕組みを採用しています。また、スリランカには工業高校や工業系専門学校が存在しないため、約300人の高校卒業後の研修生に日本式造船技術を1~2年間かけて社内でトレーニングし、技術水準を満たした卒業生のみ採用する方式で優秀な人材を確保しています。
今後、環インド洋商業圏や欧米に加え、東アフリカ新興国、中東方面への可能性も高まる海上交通ハブにて、尾道造船の需要やプレゼンスもますます高まると期待されます。
今回訪問した唯一の現地政府系機関であるBOIは、様々なインセンティブで海外からの投資を呼び込もうとしています。特に、日本の技術力、待遇の良い職場環境、誠実な雇用主等、総じて日本に対して好意的な印象を持っている様子でした。とりわけ、ノリタケカンパニーリミテッドはスリランカ内戦の始まるさらに以前から当地に進出し、ノリタケの技を代々伝承する家系も出るほど当地に溶け込み、地域に産業と技術をもたらした理想的な投資モデルであるとその功績を大いに称えておられました。このような投資を日本からさらに呼び込むため、BOIとしても先ごろ、東京、大阪、名古屋等を訪問し、投資パートナー企業の発掘を試みたとの報告もあり、今後ますます日本からの企業進出に拍車がかかるかもしれません。
前身の日本陶器合名会社から数えて創業114年のノリタケカンパニーリミテッド(本社:愛知県)の子会社として、1972年にスリランカ第2の都市キャンディーにて設立されたのがNoritake Lanka Porcelainです。東京ドーム3.5個分ほどの敷地に、現在約1,250名の従業員(内、製造部門が877名)が在籍しています。出荷量ベースでは、現在ノリタケブランドの約9割はこのスリランカで製造されているのだそうです。多くの工程が手作業でなければ対応出来ないため人件費問題を解消するべく、日系企業の中ではいち早くスリランカへ進出を果たされました。また、2014年にはコロンボに旗艦店をオープンしたことから、国内売り上げの約7割は外国人旅行客によるインバウンド需要となっており、ノリタケの拠点はスリランカの観光スポットとしての地位も築いています。
今回は、シンガポール日本商工会議所のミッション団ということもあり、現地に進出してから長年かけて同国との信頼を築き、ビジネス面でもモデルケースとなっている日本企業への訪問が叶いました。参加者からは、現地でのビジネス環境や国民性、経済状況や市場の魅力等、具体的な質問が相次ぎ、今後のスリランカ進出への足掛かりとなる有意義な情報交換が行われました。
また、日系企業の多くは、これまでスリランカ国内にて女性を含む多くの現地雇用を創出しており、そのような多年にわたる功績からスリランカ政府の信頼も厚く、新たな進出も大いに歓迎されています。さらに、国民の約75%が仏教徒であることから、宗教的な理由による肉(牛、豚など)やアルコール類の販売が制限されることもない上、識字率が高く英語も通じる環境であるということも、ビジネスのパートナー及び消費マーケット両面における可能性が期待できる国と考えられます。
クレアとしてもこの“光輝くブルーオーシャン”であるスリランカの動向に注目し引き続き情報の収集と発信に努めて参ります。