2019年の新春を飾るイベントとして、名門ホテルカペラ・シンガポールにおいて京都の料理人が京都府産の食材を調理実演しながら和食を提供する「京都シェフズテーブル」が開催されました。前半の1月9日から13日までは懐石料理を、後半の1月16日から20日までは寿司をメインとした本場の京料理が当地シンガポールにて再現されました。いずれも、初日の昼間は、現地シェフやメディアを対象とした食材提案会が行われ、シンガポールにおける京都府産農林水産物とその調理方法について紹介されましたので、その様子を報告します。
まずは、今回のメインの食材である京野菜についてご紹介します。京都は千有余年の間、都として栄え全国から選りすぐりの品々や情報が集まっていたことから、野菜も宮廷や社寺に全国から優れた献上品として集まり、京都の肥沃な土壌と豊かな水源、農家の高い栽培技術により年月を経て改良されてきました。
現在は、安心・安全と環境に配慮した「京都こだわり生産認証システム」により生産された京都産農林水産物の中から品質・規格・生産地を厳選したものを「京のブランド産品」として(公社)京のふるさと産品協会が認証しています。認証される条件としては、出荷単位としての適正な量が確保でき、品質・規格が統一され、他産地に対する優位性・独自性の要素があるようなこと等が挙げられます。また、「京都こだわり生産認証システム」では、①農薬・化学肥料の使用を減らした環境にやさしい農法、②認証検査員による栽培状況と記帳のチェック、③情報の開示により生産者の顔が見える農産物とするなどの条件を満たすことが必要となります。このような条件をクリアした選りすぐりの「京のブランド産品」を、今回は本場京都の料理人が腕を振るって美味しい芸術品に仕上げ、当地シンガポール人の舌をうならせました。
京のブランド産品の中で、特に京野菜は全国的にも知られていますが、大きな特徴としては、①見た目の美しさ、②味の良さ、③伝統的な栽培方法による健康機能性(栄養価の高さ)が挙げられるでしょう。ここでは今回イベントで紹介された個別の野菜の特徴について触れてみます。
聖護院かぶ:大きく風格のある形状をした聖護院かぶは、享保年間(1716~1736年)に、聖護院の農家が近江かぶの種子を持ち帰り、改良を加えたことで肉質がきめ細かで緻密な品質の良い大かぶとなったものです。京漬け物「千枚漬け」の材料として大変有名ですが、かぶら蒸しやサラダでの生食等幅広く味わうことができます。
えびいも:安永年間(1772~81)、現在の「いもぼう」の祖先が長崎から持ち帰った里芋の種を、土入れをして丁寧に育てているうち、皮に縞がある大きなえびのような形をした芋が採れるようになり、「えびいも」と名付けられたとか。 肉質が緻密で煮込んでも形が崩れず、中までじっくり味が染み込むのが特徴です。
金時にんじん:京料理に欠かせない彩りとして古くから用いられ、特に京都で栽培された人参は軟らかくて芯まで真っ赤であることが特徴とされてきました。この紅色はリコペンを多く含み、最近特にガンを予防する効果が高いことが評価されています。金時人参は芽が出にくく、厚めに種を蒔いて間引くのが栽培の特徴ですが、その間引き菜も「にんじん葉」として流通し、多くのファンを集めています。
九条ねぎ:京都におけるネギ栽培の歴史は極めて古く、約1300年前の和銅年間に導入されたとの記録があります。九条ねぎは日本の葉ねぎ(青葱)の代表品種ですが、古くから栽培されていた「九条」という地名からこの名前が付きました。葉の内部のぬめりが、ネギ本来の甘味と軟らかさの秘密ですが、白葱と違って緑の葉にはカロテンやビタミンBを多く含み、風邪の妙薬ともいわれています。
また、今回は京野菜だけではなく、お肉やお魚も京都府産食材として紹介されました。京都府産黒毛和牛肉には、「京の肉」、「京都肉」、「亀岡肉」の3種類がありますが、これらを輸出用ブランド「Kyoto Beef雅(みやび)」と総称し、海外のファンに届けられています。特に、うまみ成分の素といわれるオレイン酸が豊富に含まれ、全国でも最高ランクの称号を得ています。また、「さわら」は、京料理には欠かせない西京焼きで知られていますが、その漁獲量においても京都府は全国で1~3位を推移しています。旬である秋から冬の頃のサワラは、脂がたっぷり乗っていて甘味が強く身は柔らかで淡泊な味わいが魅力です。
上記以外にも、京都府産日本酒や宇治茶も提供されるなど、京都府産食材の認知度向上のためカペラ・シンガポールを舞台にPRや情報発信が行われました。期間中、「京都シェフズテーブル」は連日満席で、定期的にこのようなイベントを継続開催して欲しいとのリクエストもあり、一定の手応えを感じることが出来ましたが、「京のブランド産品」の生産量は決して多くはありません。そうであるからこそ、その価値をより高く評価し、十分な付加価値を受入れてもらえるより魅力的なマーケットや場を発掘することにより、府内一次産業事業者の所得向上と関係産業の持続的繁栄に貢献することが期待されています。