シンガポールは、1980年代初頭に情報技術(IT)が経済成長の牽引役として将来有望と認識し、世界に先駆けて国家的な情報化を推進し、その結果、世界有数の情報化都市となりました。現在も、国全体でのITの体系的な利用やAIやビッグデータなどの最先端技術を積極的に活用する「Smart Nation」の実現に向け、情報化を推進しています。
一方、新型コロナウイルスについては、多い時で1日に約1,000人の新規感染者を記録したシンガポールですが、政府の対策により、市中感染者は11月11日から25日まで1人も出ておらず、その後も12月2日現在0~2人の極めて低い水準で推移しています。
政府はITも積極的に活用しており、その1つが、入退場記録システムである「SafeEntry」です。施設の入退館時に、出入口に掲示されているQRコードから専用サイトにアクセスして個人情報を入力し、チェックイン・アウトを行います。新規感染者が確認された場合、政府はSafeEntryの記録から接触者を割り出せます。現在では、企業や店舗に義務付けられ、どこに行くにもSafeEntryでのチェックイン・アウトが必要です。
また、接触追跡用アプリである「TraceTogether」もITを活用した対策の1つです。スマートフォンにこのアプリをダウンロードすると、近接している他の利用者の情報を無線通信で自動的に記録するため、利用者が感染した場合、接触者を迅速に特定できます。現在、キーホルダー型の携行端末を全住民に配布しており、12月末までにレストラン、職場、学校などでTraceTogetherによるチェックインが義務化されます。11月1日時点では5割程度の普及率ですが、TraceTogetherの有効性を増すため、政府は7割程度の普及を目指しています。
なお、日本でもTraceTogetherを参考に「新型コロナウイルス接触確認アプリ」が導入されましたが、プライバシーへの配慮から、感染者と接触があった場合に本人へ通知するのみで、政府が接触者を追跡することはできません。
このように、シンガポールでは新型コロナウイルス対策にITを積極的に活用し、感染を抑制しています。今後も、世界有数の情報化都市であるシンガポールがどのようにITを活用していくのか、注目していきます。
シンガポール事務所所長補佐 田中