2017年8月にクレアシンガポール事務所はカンボジア王国プノンペンを訪問し、北九州市上下水道局がJICAと連携して水道技術支援を行う現場を視察しました。
カンボジアでは1970年代後半から始まった内戦中に上水道施設が被害を受けて以降、人々に安全な水の提供が行われていませんでした。そこでJICAでは内戦終結直後の1993年から首都プノンペンの都市水環境プログラムに取り組み、上水道整備計画策定や施設整備を支援してきました。北九州市は1999年からJICA等の依頼により専門家を派遣し、水道施設の運転・維持管理に携わっています。
また、2003年からは北九州市上下水道局が中心となり、プノンペンで水道事業人材育成プロジェクト(フェーズ1)がスタートしました。フェーズ1ではプノンペンの水道公社(PPWSA)の職員に向けて水道施設運転および維持管理能力向上のための技術移転を実施しました。PPWSAの熱心な取り組みと北九州市の指導により1993年には70%であった無収水率(漏水等で無駄になる水)が2006年には8%になるなど大きな成果をあげました。この取り組みは「プノンペンの奇跡」とも言われ高く評価されています。水質も大きく改善し、現在、プノンペンの水道水は東南アジアでもトップクラスの質を誇り、24時間安全に飲むことが可能です。
2007年から始まった水道事業人材育成プロジェクト(フェーズ2)ではカンボジアの地方8都市の公営水道事業体(TPWS)に対象を広げ、上水道施設の運転・維持管理能力向上を目的とした支援が行われました。ここでも、2003年には30%だった無収水率が2011年には17%(8都市平均)になった他、24時間給水が可能になるなどの確実な成果があがっています。
2017年現在、2012年から始まった水道事業人材育成プロジェクト(フェーズ3)が実施されています。フェーズ3では、地方8都市の公営水道事業体自らの安定した経営による水道サービス向上を目的として、経営管理計画の策定や人材育成マネジメント能力の向上支援がされており、現在対象の8都市すべてで水道事業の経営黒字化にも成功しているとのことです。
プノンペンだけでなく、カンボジアのこれらの都市でもで安心安全な水道水の供給が始まっています。
今回、お話を伺った北九州市駐在員からは、北九州市の国際協力により、カンボジアの生活の質が向上することはもちろんのこと、職員が発展途上国で一から技術を教えることで、職員の能力向上にもつながっているとお話しいただきました。また市のネームバリューの向上にもつながっているといいます。実際、カンボジアでは多くの人が北九州市の水道事業を認知しています。
また、これらの長年の技術協力や交流を契機として2016年に北九州市とプノンペンでは姉妹都市協定を締結しました。
そして、北九州市の技術協力は水ビジネスという新たな展開も迎えています。官民のジョイントベンチャーである「北九州市海外水ビジネス推進協議会」が中心となり、カンボジアでの様々な案件の受注につながっています。
北九州市の技術協力はカンボジアの発展を支えるだけでなく、相互にメリットのある関係を目指し進化を続けています。
(シンガポール事務所所長補佐 中澤)