東南アジア経済の中心地として発展したシンガポールでは、近代的高層ビルが林立する一方で、歴史的建造物を保全する取り組みも行われています。イギリス統治時代の建造物や、「チャイナタウン」(中華系)、「リトルインディア」(インド系)、「カンポングラム」(マレー・アラブ系)といった移民の歴史を色濃く残す街並みが残っており、観光客の目を楽しませています。
しかし、実はこれらの建造物や街並みは、シンガポールの都市再開発の歴史の中で失われてしまう恐れもありました。
そこで今回は、シンガポールの歴史的建造物保全に関する歴史と取り組みについて紹介します。
シンガポールの歴史的建造物保全の歴史は、1980年代半ばまでさかのぼります。
1965年に独立国家となってから1980年代の初めまでは、急速な経済成長を進める中で住宅や商業施設を優先した都市再開発が行われ、多くの歴史的建造物や街並みが失われました。
1980年代半ばに入り、住宅や商業施設の需要が一段落すると、歴史的建造物の価値が評価され始め、保全に向けた取り組みが始まりました。1986年には、歴史的建造物保全に関するマスタープランが策定され、現在までに7,000以上の歴史的建造物が保全されてきています。先ほどあげた「チャイナタウン」、「リトルインディア」や「カンポングラム」といった街並みも、このマスタープランに基づいて保全されています。
シンガポールでは、歴史的建造物に二つの価値を置いています。一つ目は先人の努力と功績を後世に伝えること、二つ目は独立したばかりの若い国に個性と歴史的たたずまいを添えることです。
特に国の魅力をこれからも高めていくうえで、後者への期待は大きいものと思われます。
歴史的建造物の保全を推進する取り組みの一つとして、「Architectural HeritageAward(建築物遺産表彰)」があげられます。この表彰は、歴史的建造物に対する意識啓発などを目的に行っているもので、1995年に始まりました。2015年の「Award for Restoration(修復部門)」では、日本の建築会社が修復工事を行った「ビクトリアシアター&コンサートホール」が受賞しています。
シンガポールで一番古い建造物は、「シンガポール旧国会議事堂」と言われています。今から約190年前の1826年に建設され、現在は国立美術館として使用されています。
実はこの建造物は、初めはスコットランド商人の個人用邸宅として造られたものでしたが、その後、最高裁判所や国会議事堂として使用され、現在に至っています。
このような、都市開発と保全を両立させた取り組みは、今後の東南アジア諸国における都市開発において、1つのモデルケースとなるでしょう。
(シンガポール事務所所長補佐 中山)