2014年、シンガポールのリー首相は「世界初のSmart Nationを目指す」ことを発表しました。
Smart Nationとは、ITの先端技術を用いて、生活環境を効率的 に管理・運営し、人々の生活の質を高め、継続的な経済発展を遂げる新しい国家のことです。
Smart Nationの構築を目指し、シンガポールではすでに国民生活に根付いた最先端技術を用いた実証実験が始まっています。
例えばジュロン地区のHDB(公団住宅)では、「Smart Health-Assist」を開始しています。これは、一人暮らしのお年寄りや身体の不自由な方の健康状態の管理を目的とした実証実験です。ここの居住者はリストバンド状のウエラブル 端末を身に着けて生活しており、医療従事者が定期的に送信される心拍数や血圧を観察しています。さらに、室内にはセンサーの埋め込まれた絨毯が敷かれており、長時間動いていない等の異変を察知した場合は、医療従事者や家族に通報するシステムも備わっています。
また、公共交通機関も、ビッグデータを利用し、さらなる効率化を目指しています。公共の場に設置されたセンサーや、移動手段検索アプリの利用者等から、人々の行動習慣を収集し、公共バスのルート設定に役立てています。
このように、シンガポールでは国民一人一人の情報を大々的に収集し、より快適で、効率的な社会を目指しています。より快適な生活が送れるようになる一 方で、個人から得る情報が多いほど、心配になるのが個人情報の流出や悪用です。
シンガポールでは今後のさらなる情報の集積・活用に備え、2016年10月にサイ バーセキュリティ戦略を発表しました。強固な情報インフラ整備に向けて予算を増額し、今後はハード面の整備はもちろん、サイバーセキュリティの分野に強い人材育成や国民への啓発活動に乗り出します。
収集する膨大な情報をどう活用し、一方で個人のプライバシーをどう守るのか、Smart Nationにおけるシンガポール政府そして国民のこれからに注目が集まります。
(シンガポール事務所所長補佐 押川)