世界中の都市から首長が集まる「世界都市サミット(World Cities Summit 2018)」が7月8日から12日まで、マリーナベイサンズで開催され、日本の地方自治体からも多くの首長・幹部が参加されました。
クレアシンガポール事務所では、サミットに参加して取材を行ったほか、サミット参加と併せてシンガポール国内の視察を行った自治体幹部等への支援として、訪問先のアポイントメント取得・同行等を行いました。
以下、活動内容等について報告します。
「世界都市サミット」とは、世界各地の知事・市長をはじめ、政策担当者や学者、都市開発等の専門家が一堂に会し、これからの都市づくりについて考える会議で、2年に1度開催されているものです。今回のテーマは「住みやすく持続可能な都市づくり」であり、毎回テーマに合わせて、人口・交通・環境問題等、都市のリーダー同士でそれぞれが抱える問題意識を共有し、先進・成功事例を学び合うなど、将来の都市づくりを考えるに当たって非常に有益な場となっています。また、今回のサミットに合わせて“持続可能性”に焦点を当てた「Singapore International Water Week」(水をテーマにした会議や展示会)や、「Clean Enviro Summit」(環境をテーマにした会議や展示会)という2つのイベントも同時に開催され、100ヵ国から約20,000人の参加者が集まりました。
サミット初日の8日には「Mayor’s Forum」が開催され、117都市から122名のリーダーが集まりました。ここではLawrence Wong国家開発省大臣が議長を務め、「我々は急速なテクノロジーの進歩を目の当たりにしている。デジタル化やビッグデータの活用、人工知能等、これらのテクノロジーは都市をつくり変えるポテンシャルを持っている」と発言し、テクノロジーの発展はこれからの都市づくりと不可分であるというメッセージを発しました。
サミット開催期間を通じて大小様々な会議が開催され、日本の地方自治体からもスピーカーとして複数の首長・幹部が登場しました。東京都は「Lee Kuan Yew World City Prize」(活力があり、かつ持続可能な都市を実現した都市に与えられる賞)において特別賞を受賞したため、副知事がLee Kuan Yew World City Prize Forumにおけるスピーカーの一人として招待され、東京が誇る鉄道交通網の仕組みや、東京都心部における官民連携による再開発、埋立処分場を森に変える海の森プロジェクト、更に東京オリンピック・パラリンピック競技大会後の都市開発について、分かりやすく説明していました。質疑応答では市民と行政との関係について問われ、都が一丸となってパブリックコメントを重視したり、市民を大切にした分かりやすい情報公開を心がけていると紹介がありました。
また、横浜市は、副市長より2つの分科会にて先進的な取組を紹介(①世界大都市気候先導グループのセッションで温暖化対策の一環としてのスマートシティ施策を、②国際住宅・都市計画連合のセッションで少子高齢化に合わせた郊外での地域づくり施策を紹介)し、他国の参加者との意見交換では、少子高齢化を伴う人口減少が進む日本の都市の動向に着目したやりとりが行われました。
そして、福岡市長はイノベーションをテーマとした分科会に、スピーカーの一人として登壇し、福岡市におけるアイランドシティの開発や、空店舗を活用した高齢者向けコミュニティルーム等を情熱的に説明しました。質疑応答の中でこれからの都市づくりのビジョンについて問われると、「発展したテクノロジーを後から都市に合わせることは難しい。これからはテクノロジーの発展より先に、限られたエリアで実証実験を繰り返して、街の仕様自体を組み立てていかなければならない。法的規制等が追い付いていないものについては、福岡市のグローバル・スタートアップ国家戦略特区をサンドボックス(※)として活用しながら、政府とともにマスタープランを実行することで、世界一のスマートシティを創りあげていきたい。」と力強く宣言していました。
※サンドボックスとは:地域や区域を区切り、新しい技術やビジネスモデル等について、より合理的な規制手法の在り方をスピーディーに検証・追求していく場のこと。
またクレアシンガポール事務所では、期間中、サミット参加に併せて活動支援依頼があった東京都と横浜市に対し、訪問先のアポイントメント取得や同行支援を行いました。
【東京都活動支援】
東京都副知事は、世界都市サミット出席に加えて、マリーナ・バラージ、シンガポールシティギャラリー、そしてクレアシンガポール事務所を訪問しました。マリーナ・バラージは貯水池と治水設備、市民のレクリエーションの場という3つの役割を兼ねた設備です。ここでは、シンガポールの水政策の概要について解説していただきました。
シンガポールシティギャラリーではシンガポールの都市づくりについて説明を受けました。「自国の長期的、短期的ニーズを把握し、戦略的な開発を進めることが必要」という言葉からは、国土、資源共に制限の大きいシンガポールの都市開発に対する真剣さが伺えました。また、シンガポールでは国土を最大限活用するために、地下利用に力を入れていくと話しており、地下空間利用の豊富な経験を持つ日本と今後の協力が期待できます。
クレアシンガポール事務所では、シンガポールの取り組む交通施策についてブリーフィングを行いました。
【横浜市活動支援】
サミットへの参加の合間の9日(月)に活動支援として、URA(Urban Redevelopment Authority:都市開発庁、MND(Ministry of National Development:国家開発省)の法定機関)との面会、ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ、マリーナバラージ、シンガポールシティギャラリー等の視察先のアレンジと随行支援を行いました。横浜市は、シンガポールが行う緑化政策、水政策、住みやすい都市計画等に高い関心をもち、視察先で担当者と活発な意見交換をされる姿が印象的でした。特にURAとの面会では、各地区の特徴に合わせて照明の色を変えて街を彩る照明施策を行っているという説明があり、質疑の中で、政府所有でない民間の建築物に特定のライトの設置をどう促すかという、横浜市での実現可能性を意識した具体的な質問もありました(※シンガポールでは、民間所有の既存建築物には特定の照明の使用を依頼するとともに補助金の支出を行い、また今後予定されている新規建築物には設置を原則義務付けるという工夫をしています)。
横浜市は2014年の世界都市サミットにおいて、過去40年間にわたる、みなとみらい21事業での民間企業との連携や、ごみ削減に向けた住民との協力等、市民や関係者との優れたパートナーシップにより都市課題を解決してきたことが評価され、Lee Kuan Yew World City Prize特別賞を受賞しています。同市が行う「住みやすく活気があり、持続可能なまちづくり」は現在もシンガポール政府から注目されており、今後も日本をリードする港湾都市として同市の取組に期待が集まります。
更に今回、世界都市サミットに関連した企業等のブース展示において、都市計画上の課題を解決するためのシミュレーションを可能とする「3Dプラットフォーム」として、シンガポール政府と株式会社ダッソーシステムズ社(フランスが本社のソフトウェア会社)の共同の取組「ヴァーチャル・シンガポール」の、初のお披露目がありましたので当事務所はその取材を行って来ました。
この3Dプラットフォームは、例えば人口分布、日照、植生に関する情報を3D化したシンガポールの街並みを参考にした公園・学校の整備計画を可能とします。シンガポール政府では、木の1本1本の植樹から成長の情報を管理しているとのことで、10年後の木の成長とそれによる日陰エリアや景観の変化をシミューレートし、新規の公園や学校の設置場所の検討材料とすることが可能となるものです。また、新しいビルを建築する前に、そのビルのエントランスを吹き抜けにする場合としない場合のそれぞれにおける、周囲への風の流れを検証するといった、風や日光・騒音が居住区域に与えるインパクトの科学的検証等も可能とするプラットフォームになります。
日本の各地方自治体においても、オープンデータを活用した新しいサービスが生まれて来ていますが、昨今の大規模災害への事前の備えや、少子高齢化を伴う人口減少へ対応する街づくりの基盤として参考となる取組がシンガポールで始まっています。
今回のサミットでは、至る所で参加者同士が“持続可能性のある社会”や“クオリティオブライフ(生活の質)”について語り合いながら、ネットワークを広げる姿が見られました。それぞれのリーダーが共通して語っていたことは、テクノロジーの発展を意識した長期的なビジョンを持った都市づくりマスタープランの大切さです。それぞれの課題を共有し、解決策を模索していくことで、様々、これからの都市づくりについて議論が深まることが期待されます。