皆さまにはどうしても食べることができないものはありますか?旅行検討先の料理が食べることができないものばかりと分かった時、そこを旅行先に選びま すか?
世界にはアレルギーなどの健康上の理由のほか、文化・宗教・主義など様々な理由から、食の制限を持つ人たちがいます。例えばムスリム(イスラム教徒)。 2020年には世界人口の4分の1を占めると予測されるムスリム(※1)は、宗教上の理由から豚肉を口にすることは許されず、またアルコール飲料を口にすることは避けるべきとされています。もう一例としてベジタリアン(菜食主義)。経済発展とともに訪日旅行者も増えているインドでは、人口の約40%がベジタ リアン(※2)と言われています。
このような食の制限を持つ人たちにとって訪れやすい国の代表が、観光立国シンガポール。「世界ムスリム旅行インデックス2018」では、イスラム協力機構加盟国以外の国・地域において、「食事の選択肢の多さ」および「人気旅行先」で第1位にランキング。ベジタリアン向けサイト「HAPPY COW」では、「完全菜食主義者にやさしい都市」で世界第6位にランキング。また、各種国際会議では、常に菜食とハラール食を用意し、参加者全員が問題なく食事をとることができるなど、食の多様性に配慮した体制を整えています。どんなお客様もオッ ケーラ(※3)というわけです。
この食の多様性への配慮には、多民族国家シンガポールならではの事情が強く影響していると考えられます。中華系、マレー系、インド系を中心に多数の民族から構成されるシンガポールは、戦略的に民族調和の政策を行っています。ここから、互いの違いを尊重し、「食の多様性も当たり前」とする土壌が生ま れていると考えられます。
さて、私たち日本を振り返ると、政府は観光ビジョンにおいて、訪日旅行者数を2030年までに6000万人とすることを目標としています。この実現には、地域の魅力をこれまで以上に高め、発信することはもちろん、食への配慮を含め旅行者が快適に観光を満喫できる環境づくりも必要となるのではないでしょうか。
(※1)「World Islamic Tourisum Conference」(2017年)
(※2) 日本貿易振興機構(JETRO)「インド日本食品消費動向調査」(2013年)
(※3) シンガポール訛りの英語で「OK。大丈夫」の意味
シンガポール事務所 所長補佐 中山