シンガポールでは、1965年のマレーシアからの独立以来、資源がない過酷な環境の下、生き残り・経済発展を懸けたチャレンジを繰り返し、その一環のオンラインサービスを国家の最優先事項として、首相の強いイニシアティブの下で各省庁が率先して推進しています。
住民の利便性向上・行政の効率化の実現のため、1999年に電子行政サービスの総合ポータルサイト「eCitizen」の運用が始まりました。個人や企業が日常必要とするほぼ全ての行政サービスや情報が、行政機関別ではなくライフスタイルに応じた目的別に掲載されており、家庭、公団住宅、教育、健康、交通、ビジネス等の分野から、オンライン申請や申請書のダウンロード、関連情報(民間サイトへのリンクや行政サービス以外の関連情報等も含む)の入手が可能なオンライン総合窓口です。提供サービスは、既に全行政機関の申請等の98%で、更に2023年までには、パスポートの受け取りや公団住宅の鍵等物理的な収受が必要な手続を除き、申請から給付までほぼ全ての行政サービスがオンラインで可能となります。
このオンラインサービスを支える基盤は、出生時に付番される国民登録番号制度であり、15歳以上の全ての国民と永住者に配布されるカードの番号(NRIC)が、行政手続、銀行口座の開設、不動産の売買、携帯電話の購入等、公私様々な場面で使用されています(外国人居住者には就労ビザ等の発行時に付番される番号(FIN)が同様に使用されます)。この国民登録制度は英国統治下の1948 年に始まったものであり、こうした国民1人1人が生涯不変の番号を持つ制度の存在が、オンラインサービスの普及と促進に大きく寄与しています。
更に、シンガポール政府は、便利な仕組みを2つ用意しています。
官公庁のサービスごとに異なる個人認証基盤の統一による利便性向上を目的として2003年に導入されました。各サービスの個人認証では、NRIC番号を共通の IDとして用い、暗証番号は利用時に設定する共通の番号を使用します。2016年 1月時点で利用者は330万人以上となっており、納税、年金、外国人の就労VISA 申請、公団住宅の申請、徴兵関係等60以上の省庁がSingPassを用いたサービス提供をしており、サービスIDが集約され利用者の登録負荷や、個別システムの開発負荷が抑制されています。なお、セキュリティ強化として、ID及びパスワ ードのみの認証形態から、現在は重要な個人情報に関するサービスには2要素認証を必要とする形態(SingPassでの認証時にスマートフォンへのショートメッセージで受け取るワンタイムパスワード等も必要とする方法)に移行してい ます。そして、更なる利便性向上として、2018年内にSingPass用のモバイルアプリケーションの提供が開始される予定で、これは、パスワード不要のアプリ で、代金支払い、デジタル署名、公団住宅申請、乗用車の売買が可能になります。
異なる行政手続ごとに個人情報を個別に入力する手間を省くものとして、2016 年から提供されています。個人情報を共通の基盤に一度だけ入力して保存することで、関係行政機関は、保存された個人情報を用いてサービス提供を開始することができる、という新しい取組です。個人情報には連絡先情報が含まれて おり、サービスを提供する行政機関が利用者本人に確実にリーチでき、利用者に寄り添ったサービスの提供も可能となっています。
日本でもマイナンバー制度が2015年に始まり、システム上でのバックオフィス連携や電子申請等の行政手続のオンライン化が始まっており、シンガポールの取組は、より一層の利便性向上・行政効率化の推進の参考となるでしょう。
シンガポール事務所 調査役 田中