建国わずか50年足らずで、急速な経済成長を遂げてきたシンガポールは、若くてエネルギッシュな国というイメージがあります。しかし、65歳以上の高齢者の割合は、2017年で14%、2030年には21%を超える見通しで、日本と同様、5人に1人が高齢者になると予測されています。また、出生率も1.2と日本の1.44 より低く、日本以上のスピードで高齢化が進む超高齢社会といえます。
一方で、日本と異なるのが、日本のような公的年金がなく、社会保障の仕組みがない点です。シンガポールは、CPF(中央積立基金)という積立金制度になっており、自分の貯蓄に応じた年金システムになっています。老後の受取額が積立金を下回ることはないというメリットの一方で、積立金は住宅購入や医療費にも充てられるため、老後の資金不足に備えて、中間所得層の高齢者の多くは、62歳の定年後も第一線で働いています。このため、街中でも、ファーストフード店やホーカーと呼ばれる屋台で、60代、70代の高齢者がパートタイムで、夜遅くまで働く姿をよく見かけます。
政府はこのような社会背景もあり、企業に、67歳までは再雇用の申し出の受け入れを義務付けるなど、高齢者に就業の場を提供する後押しをしています。この取り組みもあり、2006年に14%だった65歳以上の就労率は、2016年には27%に倍増し、日本の22%を追い抜きました。
また、先述のような国の制度を補完するために、ボランティア活動が盛んなことも特徴としてあげられます。リー・シェンロン首相は、元気な高齢者を「楽齢(アクティブ・エイジャー)」と名付け、60歳を「NEW40(新しい40歳)」と呼ぶなど、就労だけでなく社会貢献も奨励しています。ゴー・チョクトン前首相が設立したシニアボランティア機構は、登録者数が現在約2,500人で、元気なシニアによる一人暮らしの高齢者宅の訪問など、社会全体で高齢者の活用、生涯現役を目指しています。
少子高齢化による労働人口の減少という日本と同じ問題に加え、高齢者の貧困など様々な課題も抱えるシンガポール。現役世代が支える日本の社会保障とは発想が根本的に異なりますが、高齢者の就業支援など、建国当時から国を支えてきた高齢者の活用を図っている点は、興味深いところです。
人生100年時代、経験豊富な高齢者のチカラを活用し、生きがいをもって老後を過ごせる社会を目指すシンガポールの取り組みに、今後も注目です。
シンガポール事務所 所長補佐 本田