2019年2月11日(月)から16日(土)まで、タイのシーサケート市に鹿児島市から消防防災の専門家を派遣し、「自治体国際協力専門家派遣事業」を実施しました。
シーサケート市はタイ北東部に位置し、クメール王朝の遺跡が数多く残っている人口約13万人の地方都市です。
近年は経済の発展により、商業ビル等の建設が進んできている状況ですが、市の消防隊はロールプレイング形式の訓練しか実施していないため、とりわけ高層建築物での消防に関する実践経験がそれほど豊富でなく、実際の火災現場で効率的な消防活動を行なえていないなどの背景から、専門家の派遣要請がありました。
今回の事業では、現地視察や市消防隊等との意見交換を通して現地の状況をより深く把握しながら、シーサケート市職員、消防隊、病院関係者、民間のボランティア団体ら約90人を対象に、講義と実技演習を通して日本の消防防災技術を紹介しました。講義の冒頭では、毎回「備えあれば憂いなし」を受講者全員が日本語で唱和し、火災が起こらないようにする、また起こってしまった際に適切に対処するための「予防」に関する意識付けを特に重点的に行いました。
現地視察では市内のホテルやショッピングモール、工場等を視察しました。多くの施設で、消防設備の点検整備や消防訓練等が徹底されていない印象を受けました。また、特に各階における防火扉等の防火区画を活用した消防活動が適切に実施されていないため、火災が発生した場合に消火活動が困難になる危険性が高いといえます。
専門家からは、火災発生時における消防設備の活用や消防訓練の重要性について助言がありました。人命に関わることなので、これらを疎かにせず、今回の事業を契機に現状が改善されることを期待します。
シーサケートから要望があった以下の4つのテーマに沿って実施しました。
① 消防資機材の紹介及び維持管理
② 建物火災時の捜索要領
③ 心肺蘇生法及び応急手当要領
④ 火災時の避難要領
これらのうち②においては、火災現場において活動するために必須の知識である「火災性状」について、模擬家屋を使用して実施しました。講義は受講者がイメージしやすいよう日本の火災事例等について動画を活用する形で実施されました。理論の説明だけではやや分かりにくい項目について非常に効果的であり、紹介した内容や用語が受講者にきちんと浸透していました。
実技演習は基本的に講義内容に沿う形で実施しました。特に建物火災時の捜索要領については、救助・捜索の際の選択肢を拡大するロープの取扱要領についても演習を行いました。また、ホースの延長方法について日本の技術をいくつか紹介したところ、シーサケート市にとって新しい技術の発見があったようで、火災の現場状況に応じて適切な延長要領を実施できる余地が広がったとの声が受講者からありました。
応急手当要領に関しては、病院関係者の技術及び講習スキルが非常に高かったため、今後は指導体系を確立して、一般の市民にも適切に普及されることが期待されます。
また、避難訓練をシーサケート市役所で実施しました。今回発見した課題としては、火災の発見から消防への通報が遅いことや、扉を開けた状態にしたまま避難していたことなどが挙げられます。講評の際には副市長から避難訓練の継続の重要性について言及があり、今後継続的な訓練が実施されることが期待されます。
今回の専門家派遣を契機に、シーサケート市の消防防災に関する知識及び技術が一層高まるとともに、鹿児島市とシーサケート市の交流のきっかけになることを願っています。
クレアでは、アセアン各国及びインド・スリランカの自治体の要請を受けて、農業、環境、都市計画などの32分野で、日本の自治体から専門家の派遣を実施しています。当事業は受入国への知識や技術の伝達だけではなく、自治体にとってもアジア諸国との有意義な情報交換の場及び将来の交流のきっかけとなります。また、海外に対する自治体PRにもつながることから、自治体におかれましては、ぜひ当事業をご活用ください。
■派遣概要
派遣先国・自治体 | タイ シーサケート県 シーサケート市 |
派遣期間 | 2019年2月9日~2月17日【9日間】
※指導期間は2月11日~2月16日 |
専門家 | 鹿児島市消防局 警防課職員 |
分野 | 消防防災 |
講義内容 | ① 消防資機材の紹介と維持管理
② 建物火災時の捜索要領 ③ 心肺蘇生法及び応急手当要領 ④ 火災時の避難要領 |
実技演習 | ① ホース延長要領及び屋内進入要領
② ロープ取扱及び指揮板作成要領 ③ 心肺蘇生法及び応急手当要領 ④ 避難訓練 |
専門家派遣事業について | http://www.clair.or.jp/j/cooperation/special/index.html |