クレアシンガポール事務所では、より自治体にとって有意義な現地情報を発信するため、2019年度は今月(7月)からマレーシアを拠点に活動しているコラボし、自治体のインバウンド事例についてご紹介していきます。
「生の声」を集める旅行博の活用法
Vector Marketing PR Malaysia 金子 美穂
1.はじめに –該当国市場の特徴
マレーシア人のライフスタイルは急速に変化しており、1年前は中華系マレーシア人ばかりがターゲットだったものの、現在はほとんどの自治体がムスリム層への対応に迫られるほど訪日数が伸びています。
それもそのはずで、現在マレーシア人の訪日客数(観光目的)は、2016年にシンガポールを抜き、2018年の統計では東南アジアでタイ、フィリピンに次ぐ第3位となっています。。
( https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/since2003_visitor_arrivals.pdf )
他宗教で祝日の多いマレーシアでは、旧正月、ハリラヤ、ディパバリ、クリスマスとさまざまな長期休暇がありますが、旅行シーズンは旧正月(1~2月)や4月、ピークは11~12月となります。
マレーシアはAirAsiaのお膝元であり、LCCを利用してさまざまな国に旅行する人が多く、ほとんどがFIT(団体旅行やパッケージツアーを利用することなく個人で海外旅行に行くこと。Foreign Independent Tourの頭文字の略。)層です。しかし一部、FITではなかなか手配のできない地域や、食事に制限のあるムスリム層、人数が多くなるインセンティブ旅行では旅行会社を使ってのツアーが人気です。
データでは宗教や民族別の訪日数は見えてきませんが、さまざまな旅行博に参加している私の肌感覚では、リピーターが多いのは中華系(5回以上行ったことがあるという層も多数)、初訪日層に多いのはムスリム系という印象です。
2.当該国での自治体の優良なプロモーション事例の紹介
(1)旅行博参加は「生の声」を集めるチャンス!
A県は、ムスリムマーケットに力を入れていました。
日本からはなんとなく遠い文化圏にあるムスリムマーケットなだけあり、より一層、ムスリムフレンドリー情報取得・拡散、日本でのムスリムの人たちへの聞き込み、ムスリムコミュニティへの参加など、ムスリムへの理解促進と必要な情報をまとめるために、これまでにさまざまな施策や試みを行っていたそうです。
しかしそれでも、ものすごいスピードで刻々と変わる東南アジア市場において、興味の対象や情報収集の方法、マレーシアにいるマレーシア人の声をキャッチアップすることを重要視しているようでした。
A県はマレーシアで開催された旅行博(MATTAやJapan Travel Fairなど)に3名で参加しました。そしてその全員が英語を話す担当者でした。私たちは現地におけるブース手配や運営、通訳、商談等のサポートを行ったので、通訳もおり、運営スタッフも日・英の両言語を話すため、県担当者が英語を話せることは必須ではなかったのですが、“生の声を聞こう”とする姿勢がとても強く伝わってきました。
アンケートの必達目標はあったものの、それよりも丁寧に来場者の質問に答えたり、コミュニケーションを取ったりすることに重点を置いていたのです。
近年は中華系を中心にリピーターが増え、またムスリム系の初訪日層が増えています。訪日旅行が現実的になればなるほど、来場者の質問はとても細かくなり、「ここからここは電車で何分か」「半日しかないとしたらどこへ行くべきか」「城や桜、海鮮は他の県にもあるが、この県には何があるか」などをどんどん聞いてきます。そのうちA県は、マレーシア人が魅力的だと思うものとA県が魅力的だと思うものにギャップがあることに気づいていきました。
また、ムスリムにとって食事の制限がどれほど重要かも、数値ではなく肌感覚で知ることができました(実は礼拝の場所よりもはるかに大事なのが食事ですが、ムスリムフレンドリーと日本人が思うレストランのほとんどは要件を満たしていないのが実情です)。
座る時間もないほどのマレーシア人とのコミュニケーションのすえ、A県はいくつかの課題を持って帰りました。「この県にしかない魅力の発掘(県名を覚えてもらうことは重要視しない)」「ムスリムフレンドリーパンフの見直し」「1日もしくは半日しか時間のない訪日客にあわせたモデルコースの作成」。これはどれも、アンケートではたどり着けない内容です。
アンケートでは、「どの観光地が魅力的か」「何を食べてみたいか」など、既存の商品や写真から選ばせる手法がメインのため、聞かれればマレーシア人は答えてくれます。
しかし、“他の県ではなく何としてもA県に行きたい”と思わせる魅力はどれか?と直接聞かれることが多かったのが、アンケートよりもヒアリングを重視した理由のひとつでした。
下記に、マレーシア人と自治体の間にギャップがある主だったものを並べてみました。
■観光地
・お城はどこの県にもあり、あまり魅力的ではない
・桜はどこも人ごみがひどく、あまり観光客がいない場所でないといかない
・古民家や重要文化財などに指定されている古い建築物は同じに見えてしまう、
もしくは歴史がわからないため魅力が伝わらない
・「海鮮」ではなくたとえば「サーモン」が有名、「うに」が有名、と具体的に説明する必要がある
(「シーフード」は東南アジアにもある)
・芝桜など、写真の画面いっぱいに広がる花畑に興味を持つ。
・マレーシア人が旅行で最初に気にするのは価格、ついで食事(ハラル)
・ムスリム=ベジタリアンではないので、肉が食べたいがレストランが少ない
・魅力的なのは話題になっていて自慢できる場所、自分が写ったときに写真映えする場所、
日本だとわかりやすい場所
■宿泊施設
・祈祷室の有無にはあまりこだわらない(ホテルの部屋でもできる)
・日本のホテルは家族(4~5人1室)で安価で泊まれるところが少ないため、
旅行単価が高くなってしまうのがネック
(肌感覚では1部屋8,000円程度で考えている層が多い)
(2)「生の声」から生まれたもの
課題認識を共有できたら、次のステップに移るのもとてもスムーズであり、A県は、前述したとおり、次年度は、
という施策へと進めていく予定です。
生の声を拾う情報収集を積極的に行ったため、マレーシアにおける訪日旅行への質問内容の変化(たとえば、ここ数年で「何があるのか」という漠然とした質問から、「半日しかなかったらどこへ行くべきか」という具体的な質問に)に気づくことができ、修正すべき資料や更新すべき施策の方向性が見えたのです。
(3)「生の声」をより効果的に集めるためには?
旅行博への出展は自治体の魅力を発掘する大きなチャンスであるのはもちろんですが、情報収集の場としても重要です。プロジェクトの必達目標がアンケートの回収数であったり、パンフレットの配布数であったりというのはひとつの大事な指標ではありますが、私たちからは、あわせて定性調査もとることを強くお勧めしています。そしてそれは、なるべくなら積極的に話しかけ、生の声を一緒に拾える形が望ましいと考えています。
なお、旅行博への出展は「ゲストに情報を渡してゲストから情報をもらう」、相互コミュニケーションの場であると考えています。私たちもそうですが、どこかお祭りに行ったときに出ていたどこかのブースのことは、よっぽどの印象が残らない限り次の日には忘れてしまいます。
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クレア担当者の所感
クレアシンガポール事務所 所長補佐 小原(埼玉県より派遣)
記事配信元詳細
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L:
代表取締役 西江肇司
設立:1993年3月30日
資本金:
資本金:2,195百万円(2018年8月31日現在)
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事業内容:PR企画立案及び実施/PR業務代行・コンサルティング/ブランディング業務/
IRコミュニケーション/キャスティング/リスクマネジメント業務/マーケティングリサーチ業務/
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