今回は、2度にわたってムスリムの話をしようと思います。
ムスリムとはイスラム教徒のことを指し、世界の人口の4分の1がムスリムと言われています。
宗教のお話はとても繊細で、100%の正解というものはないと考えています。今回お話するのも、あくまでも私がマレーシアに住み、ムスリムマーケットに日々接した中で醸成したイメージや、蓄積した知識です。
ムスリムはマレーシアやインドネシアにしかいないと思っていませんか?ムスリムは東南アジアのどの国にもおり、シンガポールやタイにもいます。
人数としては下記のとおり、インドネシアが圧倒的に多く、ついでマレーシアです。
インドネシア人ムスリム 2億3000万人(人口2億7000万人)
マレーシア人ムスリム 1630万人(人口3200万人)
タイ人ムスリム 390万人(人口6900万人)
シンガポール人ムスリム 81万人(人口580万人)
(出展:World Population Review 2019)
かつてマレーシアと同じ国だったシンガポールよりも、タイにいるムスリム人口のほうが多いとは、興味深いですよね。
とはいえ、日本人にとってはまだまだ遠い宗教で、「スカーフ(ヒジャブ)を被っている」「一夫多妻制」「豚肉とアルコールがNG」くらいの印象ではないでしょうか。
さて、ひとことでムスリムと言っても、それぞれの国で守っている戒律が異なります。ムスリムにはいくつかの宗派があり、その中でも最も厳しい教えを守っているのがマレーシアと言われており、そのため、他の国に比べるとやや保守的という印象があります。
例えば、シンガポールではあまりヒジャブをかぶっているムスリムを見かけませんし、インドネシア人ムスリムは、環境や個人の解釈でお酒を飲んだり豚肉を食べたりする人もいます。しかしマレーシアではほとんどのムスリム女性はヒジャブを被り、豚肉は絶対に口にしません。
■インバウンド・アウトバウンドを考えたときにどこまでムスリムフレンドリーを考慮するか
さて、インバウンド・アウトバウンドマーケティングに際してはどの程度までムスリムフレンドリーを考慮するか、が、悩みの一つだと思います。実際に、「マレーシアに新しい業態をオープンさせたいのだけど、ハラル認証がなくてもお客さんは来ますか?」や「私たちの観光地はシーフードしかないのですがそれでムスリムフレンドリーになりますか?」という相談は大変多いです。
ですが私たちの答えはひとつ、「マレーシアに進出するならハラル認証は必須」、「日本の観光地にはもっとムスリムフレンドリーなレストランやメニューを」です。
マレーシアは基本的に豚肉を扱う中華レストランや、アルコールを扱うバーなどを除き、ほとんどハラルを取得しています。ハラル認証がなくてもいいか、と問われれば、なくても営業はできますが、圧倒的大多数のハラル認証の競合にどう勝っていくのかを考えなければなりません。
わざわざハラル認証のないところを選ぶ理由がないからです。
また、「そんなにハラルかどうかを気にするのか?」という疑問もあるでしょう。これも答えは「イエス」です。
聞かれてしまったら、「イエス」と答えるしかありません。「ハラルかどうかを気にしません」という回答は、基本的には言わない国民性です。つまりハラルレストランとノンハラル(ハラル対応ではない)レストランが並んでいたら、あえてノンハラルレストランを選ぶことはないのです。
先日、こんな記事を読みました。
「アジアの日系百貨店は「オワコン」か?中国やタイ資本に猛追される理由」
https://diamond.jp/articles/-/214040
※「オワコン」とは、「終わったコンテンツ」を指し、主に一般ユーザー又は、個人ユーザーに飽きられてしまい、一時は栄えていたが現在では見捨てられてしまったこと、ブームが去って流行遅れになったこと、および時代に合わなくなった漫画・アニメや商品・サービスを意味するインターネットスラングのこと
ひとつの見方ではありますが、「食の充実が何より重要」という部分に、とても納得しました。
私たち日本人だって、どこか旅行をするとき、あれを食べようこれを食べようっていろいろプランしますし、それが旅行の醍醐味であったり動機であったりするはずです。
ムスリムフレンドリーな食事が提供できないということは、その観光地の旅行の魅力が半減してしまうということなのです。
■5 things to do for Muslim
①豚肉を使っているもの、アルコールを使っているものがどれかわかるようにメニューにアイコンを設ける
(ポテトサラダにハムは入ってませんか?「チキン南蛮定食」の小鉢には何が入っていますか?)
②事前予約を入れれば、豚肉、アルコールを使わない料理の提供を可にする
(豚肉のエキスもダメです。みりんや醤油にアルコールが含まれている場合には、砂糖とノンアルコール醤油を使用してください)
③明らかに豚肉を使用している居酒屋などの場合、ムスリムの方用のお皿と割りばしを用意してあげてください。
(これまでに豚に触れていない食器です)
④礼拝スペースやコンパスを置いて「ムスリムフレンドリー」とPRしていませんか?それよりも大事なのはメニューの内容です。旅行中に礼拝を気にするのは保守的なムスリムですので、料理の方がはるかに大事です。そのエネルギーはぜひハラル対応料理に注いでいただきたいと思います。
⑤何よりも大事なのは、スタッフ全員が「ムスリムが豚と酒がNG」と分かっている雰囲気があることです
(電話口で、「はい、ナシにできますけど」という受け答えではなく「あ、ムスリムの方ですね、豚も酒も不使用で提供します」と言ってくれるところが重要です)
厳密にいえば、人によってはお酒を提供しているお店はNG、という人もいます。
しかしそれでは日本の飲食業が成り立たず、旅行中だから自分が飲まなければOK、とする程度の柔軟性は持ち合わせています。
日本のホテルの朝食は、スクランブルエッグ、ソーセージ、ベーコン、ポテト、サラダ、などがメインですが、ムスリムの国の方々にとって、ソーセージは鳥のソーセージ、牛のソーセージ、豚のソーセージ、羊のソーセージなどさまざまな種類があって、日本のソーセージがほぼ豚肉であることは知りません。
そのため、ちょっとしたアイコンを置いておくことで、「食べてはいけないものだ」と分かってもらうことができます。
また、そのような対応をしていたら、写真を撮って友人に送って情報を共有するのもムスリムコミュニティの特徴です。本当の意味での口コミが功を奏して、多くのムスリム観光客を呼ぶことができるはずです。
■“誰と行くか”によっても変化する柔軟性
実はこの「どれだけハラルを気にするのか?」問題は、「誰と旅行に行くのか」によっても大きく変わります。
みなさんが旅行することを考えてみてください。自由度が高いのは、下記の順だと思いませんか?
自由度超高:きままな一人旅行、どこでも好きなところに行き、好きな時に休憩し、好きなものを食べる
自由度高:何年も一緒にいる友人との旅行、ある程度わがままも言えるし、お互いの好みも知っている、だけど少しは遠慮もしないとならない
自由度普通:家族との旅行、英語のわからない父と、あまり歩きたくない母と、あれこれ行きたがる妹の全員が楽しめるプランを考えないと、食事は脂っこいものもダメだし、私は生ものが苦手だし、悩むなあ
自由度低:会社の小規模な社員旅行、すでに旅程も食事も決まっている、部長が食べたい寿司と天ぷらはマスト、少し自由時間があるから、ショッピングはそこで行っておかないと
自由度超低:100人以上のインセンティブ旅行、社長も副社長も部長もみんなBBQはイヤみたいで、無難な懐石料理に落ち着きそう。私は肉ががっつり食べたいのに。
―さて、これと同じことがムスリムコミュニティでも起こります。大人数になればなるほど、一番厳しい人や年配の人、エライ人の好みに合わせないとなりません。
自然と、「ハラル認証」「ムスリム対応ができる」レストランしか、選択肢がなくなるのです。
ムスリムは家族旅行が多いです。宗教上、結婚前の男女カップルが旅行に行くことはありませんので、友人とのグループか、5~8人規模の家族か、もしくはインセンティブ旅行などの団体がメインのお客さまです。
蛇足ですが、先日とある県のインバウンド担当者が、週に1回のビーガン生活を始めたとおっしゃっていました。健康のためというよりは、観光客に対してどんなレストランがあるか発掘するためとのことでした。
が、大きい都市なのに始めてみたら意外と見つからなくて、旅行者はもっと情報が得られないだろうと肌で感じた、とのことでした。
相手を知れば知るほど、まだまだ日本にはムスリムフレンドリーなレストランが足りていない、必要だと感じます。
まずは、ムスリムがどういう人たちなのかを知り、少しずつ、対応範囲を広げていくことが重要です。
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クレア担当者の所感
・ハラル認証は最終目標として、まずは原料表記(豚、アルコール含む)などから始めつつ、ムスリムフレンドリーなど可能な範囲での対応を進めていく形で、一歩ずつでもムスリムの方々を受け入れる環境を整えていくことが大切だと思います。
・ムスリム対応が完璧にできる施設は多くありませんが、ムスリムフレンドリーであれば対応が可能な施設が各地で増えてきているようです。しかし、ムスリムの方までその情報を届けるのが難しいため、自治体の積極的な取り組みが重要となると感じました。
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記事配信元
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