クレアシンガポール事務所では、より自治体にとって有意義な現地情報を発信するため、マレーシアを拠点に活動している広告代理店とコラボし、自治体のインバウンド事例についてご紹介しています。今月号のテーマは、「ムスリム旅行者への宿泊対応について」です。
「あなたの知らないムスリムの世界」 ~ホテル編~
Vector Marketing PR Malaysia 金子 美穂
「あなたの知らないムスリムの世界」の後編です。今回はイスラム教徒(ムスリム)の方が宿泊するときのポイントについてお伝えしたいと思います。
その前にもう一度、東南アジアのムスリム人口について記載しておきます。
インドネシア人ムスリム 2億3000万人(人口2億7000万人)
マレーシア人ムスリム 1630万人(人口3200万人)
タイ人ムスリム 390万人(人口6900万人)
シンガポール人ムスリム 81万人(人口580万人)
(出典:World Population Review 2019)
比較的ツアーパッケージ参加が多いムスリムですが、近年は徐々にFIT(Foreign Independent Tour)層も増えてきており、自分たちでフライトや宿泊を予約し、旅先での内容も自分で決めます。
訪日旅行の場合、多くの旅行日数は5~6日というパターンが多く、鉄道会社の2Dayパスなどを購入し、オリジナルの旅程を組むようですが、その中の1日はOTA(Online Travel Agency)のKLOOK(https://www.klook.com/ja/)やKKDay(https://www.kkday.com/ja)からタビナカ(※)(旅行中)の1日ツアーを購入する、というケースも増えています。
※旅行をすると決めてからの旅の準備やプロセスを「タビマエ」「タビナカ」「タビアト」と呼び、特に「タビナカ」は、旅行中にその地域でのグルメやアクティビティを探して申し込み、楽しむという新しいコンセプトであり市場です。
■ムスリム旅行者を知るキーワード、「家族旅行」と「大人数」
ムスリムは日本人の感覚からすると、比較的大家族です。夫婦の間には3~5名の子供がいることも珍しくなく、また、その夫婦の兄弟・姉妹や両親はもちろん、いとこなどの親戚と一緒もしくは近くに暮らしたり、一緒に旅行を楽しんだりする文化です。
実際に空港でエアアジアの発券カウンターなどに並んでいると(エアアジアはLCCのためチケットの発券を空港で自ら行う必要があります)、前のグループの発券に時間がかかっていることがよくあり、最終的に10枚ものチケットを発券していた、というのは珍しい光景ではありません。
大人数ゆえに、宿泊費も気になります。また、可能な限り一部屋に全員で泊まりたいということもあり、Airbnb(民泊)の利用率が非常に高いです。
Airbnbであれば家を一棟レンタルできたり、別々の部屋だとしても費用を安く済ませることができます。
日本のホテルは多くがPer Head(一人あたりいくら)で価格を表示しており、海外のPer Room(一部屋あたりいくら)の感覚からすると、大変高額に映るのでしょう。
また、ムスリムは自国からハラル認証されたレトルト食品や、パン、インスタントラーメンなどを持って旅行する方も多く、調理ができる簡易キッチンの付いた宿泊施設を好むこともあります。
一部屋に多くの人数が宿泊できる旅館や家族向けホテルは、ぜひムスリムマーケットや旅行代理店に積極的にPRしていただきたいと思います。
また、そういう宿泊施設に取り入れていただきたいものが2つあります。
一つ目は、「食事メニューに豚を使っているか使っていないか」がわかるメモ。二つ目は、「お祈りの時間」の案内です。
■ムスリム旅行者が多い地域のホテルに導入していただきたいこと2つ
ムスリムの食事については前回触れましたが、ホテルの朝食のブッフェなどで、このような表示をしていただけると安心です。
これは何もムスリムだけに限らず、近年ますます増えつつあるベジタリアンやビーガン、牛肉を食べない中華系の方に向けても有効です。
世界的にみると食の制限がない日本は実は非常に珍しく、多くの海外のホテルでは食の制限のある方のために、食材のアイコンや説明が表示されています。
また、海外のホテルには、よく探すとキブラ(メッカを示す方角)があります。これは矢印やコンパスでお祈りの方角を示しているものです。
近年はスマホのアプリがその場所からのメッカの方角を教えてくれるので便利になりましたが、お祈りの時間は都市によって全て異なります。
例えば、東京都と神奈川県でも数分異なりますので、その日のお祈りの時間を印刷し、フロントに掲示しておくと喜ばれます。
■ムスリムツアーパッケージの鍵はホテルにあり?
鉄道会社の方が以前、都市部に比べてまだ地方のムスリムフレンドリーはこれからという印象なので、なかなかFITが売りにくい、というような話をしておりました。
ホテルの朝食で食材表示がされていたり、事前に予約することでホテルの夕食にもムスリムフレンドリーな選択肢が出てくるのであれば、とりあえずは地方もムスリム向けの訪日パッケージが作れるかもしれない、といろいろかけあっているそうです。
ムスリムに限らず、外国人旅行者に人気の宿泊施設には傾向があります。
・高価すぎない(1部屋1泊8000円以下)
・英語での案内や英語話者の常駐など、ストレスフリー
・食事のオプションが幅広い(ハラル、ベジタリアン、ビーガンなど)
・施設内の体験アクティビティが豊富
・一部屋に多くの人数が宿泊できる
世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」が毎年実施している、「外国人に人気の日本のホテルランキング2019」(https://tg.tripadvisor.jp/news/ranking/best-inbound-hotels/)によると、ここ1~2年でランキングに変化が見られ、1位は「クラブメッド 北海道 トマム(北海道占冠村)、2位は「クラブメッド 北海道 サホロ(北海道新得町)」となっています。
これまでは外資系有名ホテルがランキングを占めていたので、新しい傾向と言えます。このクラブメットの特徴は、ホテル内に体験型アクティビティを備えるオールインクルーシブ(旅行代金に食事、施設使用費、体験型アクティビティやプログラム費が全て含まれている)である点です。
また、「ヒルトン東京ベイ」は、2018年4月よりリニューアルを実施。全256室から197室に部屋数を減らし、2段ベッドを設置した最大6名(未就学児の添い寝のお子様がいる場合は最大12名)まで宿泊可能な部屋へと拡張し、インバウンド需要に応えています。
また、京都駅前に建設されたAPAホテルでは、外国人に好まれる施設を目指し、ダブル26室、ツイン60室、トリプル314室という構成にし、特に家族やグループ利用の多いインバウンド向けに開業しました。
ムスリム旅行者を呼び込みたいと考えている自治体の事業者さまには、ぜひ、ホテルとの連携を進めていただきたいと存じます。
クレア担当者の所感
・食事や礼拝スペースの確保などにおいて本格的なムスリム対応をしている宿泊施設はまだ少数派で、食事については「肉・酒のみ使用しない対応」や「ベジタリアン対応」で対応ししているところが多いようです。
・米調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、世界のイスラム人口は、2010年時点で約16億人と世界人口の23.2%を占めておりますが、今後も増加は続き、2070年には世界最大のキリスト教と並び世界人口の32.3%に達すると予測されております。今後、イスラム教徒は、誘客の主要なターゲットとなり、世界各国における誘客競争が激しくなることが想定されますので、食事の材料表示やお祈りの時間の掲示など比較的容易に出来ることから着実に体制整備を進めていくことが大切だと感じました。
クレアシンガポール事務所
所長補佐 打木(群馬県より派遣)
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