先日、東京近郊の都市で弊社主催の東南アジアインバウンドセミナーを開催しました。
その際にプレゼンした内容をお話しいたします。
近年、様々な自治体によるメディア、KOL(Key Opinion Leader)、旅行代理店を招聘したFAMツアー(観光地の誘致促進のため現地を視察してもらうツアーのことで、Familiarization Tourの略)が盛んに行われており、とても意欲的な情報発信が行われています。
しかしその一方で、「メディアへの露出は毎年やっているもののあまり認知度が上がっている気がしないので、他にどういうことをやったらいいのか」という相談も多くいただきます。
例えば、シンガポールに旅行へ行く、と想像してみてください。
どこに行ってみたい、何を見てみたいと思うでしょうか?
外せないのはこの写真のスポットなどではないでしょうか?
さて、これらの正式な名前を知っていますか?
それぞれ、マリーナベイサンズホテル(撮影場所はマーライオンパーク)、ガーデンズバイザベイ、アラブストリート(ハジ・レーン)という名称です。
ですが、名称を知っていなくとも、マリーナベイサンズは「あの屋上にプールのあるホテル」で伝わりますし思い浮かべることができます。
ガーデンズバイザベイも、そのホテルの近くにある、大きい人工ツリーのある植物園、で通じます。
マーライオンは多くの人が知っているかもしれませんが、1 Fullerton Rdという実際の地区(住所)の名前は気にしないのではないでしょうか。
近年はアラブストリート一帯の壁にアートが描かれインスタ映えすると話題ですが、これも「アラブストリート」(ハジ・レーン)ではなく、「壁がインスタ映えするところ」で検索したほうがお目当てのものが早く見つかるかもしれません。
つまり、正確な名前や地名を覚えてもらう必要は必ずしも必要なく、「行ってみたい」と思わせるアイコンをひとつでも多く作ること、持つこと、育てることが重要なのです。その次にはきっと、「予算はどれくらいかな?」「何泊必要かな?」「他には何があるかな?」とさらに調べてみたり、知り合いに聞いてみたりすることでしょう。
そのため、検索した先に英語で情報があることは非常に重要ですし、知り合いからの口コミは、「よかったよ、あのね、〇〇だったから」である必要があります。
私たちも旅行検討先を調べているときに、知り合いから「あぁ、あそこはあまりよくなかったよ、だってね、〇〇だったから」と聞かされると、訪問先としての優先順位が落ちるかもしれません。
つまり、外国人の旅行の動機、旅行先の選定動機は、私たちと同じであり、十分に想像しうるものなのです。
行ってみたいと思う強いアイコンやコンテンツがあってそれを情報拡散する→調べたら情報の受け皿がきちんとある→実際に行ってみて英語対応、ハラル対応などの満足度がある、という一連の流れが不可欠になるのです。
そして、1度や2度のメディア露出ではなく、継続的に知ってもらう必要があるのです。
シンガポールのこれらの観光スポットも、何も昨日今日雑誌で紹介されたからでもなく、有名人が紹介したからでもなく、日本人が繰り返し情報を得続けたために、いまやとても有名になったのです。
■アイコンやコンテンツを作る、知るという発想
アイコンやコンテンツを用意する際、私たちは、「観光地は、こちらが出したいものより、FAMツアーで勝手に歩きまわってもらうのはどうですか?」と提案いたします。
ときに、自治体よりも外国人メディアのほうが、外国人観光客の興味をひくものを見つけるのが得意なことがあるからです。
私たちはどうしても日本人目線を捨てきれません。
例えば関東出身の人間であれば、修学旅行などで訪問した鎌倉の大仏はとても重要なもので、東京近郊を紹介する際に外せないスポットに思えますが、仏教寺院はマレーシアやタイ、ベトナムにもあります。
また、上野動物公園は日本で唯一パンダが見られる動物園なので日本人へはそれでいいでしょう。ですが、東南アジアにもパンダはおります。したがって、同じメッセージではあまり魅力にならない、ということが起こるのです。
外国人に有名な「スラムダンクの鎌倉高校前」や「長野県のスノーモンキー」、「蔵王のスノーモンスター」などは、実は外国人観光客によって発掘された(もしくはネーミングが付けられ)と考えられる観光コンテンツなのです。
また、「スラムダンクの鎌倉高校前駅」もそうですが、アニメの「聖地巡礼(人気のアニメや漫画に出てくる場所を「聖地」と呼び、実際に足を運ぶこと)」を目的とした訪日スタイルは新しい旅行の形として認知されつつあります。
実際に、旅行博では若い世代から、「ラブライブ!サンシャイン」(http://www.lovelive-anime.jp/uranohoshi/)の聖地である沼津市を年に数回友達と訪れているという話を聞きました。
また、2019年11月28日には成田空港に日本のアニメ作品などとコラボした新エリア「アニメロード」「アニメデッキ」がオープンしました。「名探偵コナン」や「進撃の巨人」などのイラストを描いた通路にグッズショップやカフェが並び、海外ファンにも人気がある「アニメ聖地巡礼」のための観光情報も展示しています。
一般社団法人アニメツーリズム協会(Japan Anime Tourism Association)のホームページでは、日本のアニメの聖地88選が発表されており
(https://animetourism88.com/ja/88AnimeSpot)、多くの自治体がさまざまなアニメの聖地に選ばれています。
英語版のパンフを作ったり、聖地巡礼をめぐるFAMツアーを企画したりと、これらを積極的に活用し、情報発信に役立てるのもいいかもしれません。
■情報拡散のポイントはフェーズによって異なる
ではどのように情報拡散をしていくのでしょうか。それはフェーズによって異なります。
私たちが主に受ける依頼は、メディアやインフルエンサー、現地でのイベントや旅行代理店へのセールスなどが多いのですが、PRしたいものがどのフェーズなのかによって、内容は当然変わってきます。
まだ全然知られていないフェーズであれば、とにかく露出最優先です。
多くの人目につくように大々的に知ってもらうことが重要です。旅行系メディアも重要ですが、屋外の目立つ場所に広告を出す、シネマアド(映画の前に流れる広告)を行う、旅行博でブースを構えるなどの選択肢もあります。代理店へのセールスも、「まずは「知ってもらう」が目的となります。まずはターゲットの記憶に残らないとなりません。
知られているとは思うけど増えない、というフェーズでは、ターゲットを明確に定めたうえで情報を届ける必要があります。
例えば、ムスリムがターゲットなら、「ムスリムフレンドリーな食事のできるモデルコース」を用意してあげる必要があります。最近は旅行代理店の役割も変化してきており、単純なグループツアーは作りませんし売れません。ただし、ターゲットがムスリムであれば、食事を含めたツアーが喜ばれることもあります。
中華系がターゲットなら、旅行代理店へのパッケージ作成のセールスではなく、FIT向けに電車コースやレンタカーコースの情報を流すことが重要かもしれません。
すでに日本の有名どころを何度も訪れたことがあり、ユニークな経験を望む富裕層がターゲットであれば、観光客が少なく、観光地や景勝地にストーリーがあるような場所が喜ばれます。
さらに進み、それなりに観光客は来ているのでブランディングを行いたいという場合には、露出の数ではなく質を重視し、マスのメディアは使わず、ブランディングにあった雑誌や新聞1社に濃厚な取材をさせて、コアファンを獲得していくという流れになります。
多くの自治体が情報発信に注力している現在だからこそ、普通の情報発信では埋もれてしまいがちです。
コンテンツの発掘とターゲット設定、マスへの情報拡散、これらを組み合わせていくことで、その地域にしかない魅力ある訪問動機を作っていくことが重要です。
クレア担当者の所感
自治体職員と話をする中で「自治体として売りたい、売れると思っているモノと、外国人観光客が好むモノにはズレがある」との声をよく聞きます。
そのズレを埋めるためには、海外のメディアや旅行客からのフィードバックにどう対応するかが大切になってきます。
自治体が観光関係者をはじめとする地域の人と協力しながら、好評だった点はさらに磨きをかけ、不評だった点については改善を行うことで、受入側と観光客側のニーズのギャップを埋める。それらの積み重ねによって、多くの競合する自治体がある中で、観光客に満足してもらえる観光地として、徐々に認知されていくのではないでしょうか。
クレアシンガポール事務所
所長補佐 井上 和哉(宮崎県からの派遣)
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代表取締役 西江肇司
設立:1993年3月30日
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