2019年9月22日(日)から26日(木)までの5日間、フィリピンのマニラで開催されたEROPA会議に参加して来ましたので、その様子をご報告します。
1 EROPAの組織
EROPA(Eastern Regional Organization for Public Administration)とは、アジア・太平洋地域の経済及び社会の発展に資するため、各国の行政の質の向上を図ることを目的として、1960年12月に設立された国際組織です。EROPAには3つの会員構成(国家会員・団体会員・個人会員)があり、クレアは団体会員代表として参加しました。国家会員(全10団体)として、日本からは自治大学校が参加しました。今年は第65回執行理事会に加え、2年に1回開催される総会及び会員代表選挙が行われました。
2 執行理事会及び総会
22日には第65回執行理事会が開催されました。ネパール総務省の事務次官が議長を務め、EROPAの認知度向上、会員への効果的な情報提供、そして事務局の能力向上のための取組みなどについて話し合われました。公共行政に関する討論会の様子をEROPAのホームページで公開する「#TAG Dialogue」が新たに開始されることになり、他にもFacebookやTwitter、公共行政ネットワーク(UNPAN)を通した多岐に渡る情報発信を行うことなどが採択されました。これらの内容は、23日及び26日に開催された総会において事務総長から報告され、総会決議として採択されることにより正式に決定されました。
また、26日に行われたEROPA団体会員の代表選挙にクレアも立候補し、天利所長によるスピーチの中でクレアの活動概要などを紹介しました。投票の結果、3枠ある団体会員代表に選出されました。クレアの他には香港公共行政学会、フィリピン専門職理事会が代表に選ばれました。団体会員代表は執行理事会への参加権を持つので、来年度も執行理事会に参加し日本のプレゼンスを高めるとともに、日本の自治体の行政サービス向上のための情報収集・情報共有に努めてまいります。
3 各国の研究発表
今回の会議では、「行政の未来~地域の回復力・公平性・持続可能性を再考する~」というメインテーマに基づき、基調講演や分科会が実施され、参加各国の政府機関職員や研究者が発表を行いました。
「環境の持続可能性」をサブテーマにした分科会では、災害をテーマにした発表が多数を占めました。日本と同様に地震や津波被害の多いフィリピンからは、フィリピン大学教授が、災害の危機管理の重要性と行政の役割について発表しました。度々災害に見舞われるマニラですが、危機管理体制はまだ不十分であり、復旧までに非常に時間がかかり、地域によっても復旧状況に大きく差が生じているという現状があります。今後は地方の復旧状況を評価する基準を作成し、迅速な復旧に向けた持続可能な目標を掲げることの重要性を強調しました。
水質汚染が世界的な問題となっているインドネシアからは、ガジャマダ大学教授がプラスチックごみ減少に向けた取組を発表しました。マイバック持参者へポイントを付与する制度や生物分解性のあるプラスチックの研究など、政府や地方自治体が主導となった取組状況を発表しました。
日本からは、上子秋生氏(立命館大学)、西村謙一氏(大阪大学)、田中俊徳氏(東京大学)及び藤原直樹氏(追手門学院大学)が研究発表を行い、縣公一郎氏(早稲田大学)がモデレーターを務めました。分科会では、田中氏が、観光地への観光客集中による環境破壊問題をテーマに研究発表を行いました。沖縄県の「保全利用協定」という制度を例に、県と旅行業者間で協定を締結することで自然環境の保全へ尽力していることを紹介しました。藤原氏は、少子高齢化や節水運動により自治体の水道事業収入が減少する中で、公益事業である水道事業をいかに効率的に維持させていくかをテーマに取り上げました。大阪市の事例発表を通して、PPP(Public Private Partnership:官民連携事業)及びPFI(Private Finance Initiative:民間資金等活用事業)により民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して公的事業を行うことの有用性を発表しました。この論文で藤原氏は、EROPAにおいてCarlos P. Ramos最優秀論文賞を受賞しました。
4 所感
今回国際会議に出席し、各国政府の取組みや大学教授の研究発表を通し多様なテーマに触れることで、様々な立場で行政の発展に尽力している方々から刺激を受けました。また、各国の政府機関関係者や大学教授などと話す機会を得て、多岐にわたる組織との連携を強化し、クレアのプレゼンスを高める貴重な機会となりました。
国際会議の進め方の面では、執行理事会の中で新たな取組みや既存制度の変更に対し意見や提案が出され、それに対する各国代表による議論、採択に至るまでの会議の進め方が大変参考になりました。運営面では、到着が遅れている講師に対し、事務局が発表順や会場を変更するなど迅速に対応していたのが印象的でした。各国から大人数が集まる国際会議では不測の事態は避けられず、それに対し臨機応変な対応が求められるということを実感しました。今回の会場はフィリピン大学だったこともあり、学生の協力も不可欠なもので、渋滞を見越し早めに会場へ到着してしまった参加者に対し、空き時間にキャンパス案内を提案するなど積極的に事務局へ協力していました。歓迎夕食会や、参加者同士の交流の場であるコーヒーブレイクにおける食事の提供方法や細かな気配りなど、国際会議を開催する上で求められる柔軟性や工夫を見ることができたのは大変貴重な経験となりました。
なお、2020年度のEROPA会議は、「包括的な成長のための公共管理~説明責任・住民参画・デジタル化~」をメインテーマに、タイのバンコクで開催されます。