クレアシンガポール事務所は4月4日、シンガポールの政策について理解を深めるため、シンガポールの国会にあたる「Parliament of Singapore」を訪問し、2016年度予算審議を傍聴しました。
1 シンガポール国会の基礎知識
シンガポールでは地方議会が存在していないため、議会としては国政レベルの国会のみとなっています。国会は一院制で任期は 5 年間、選挙権・被選挙権ともに 21 歳以上の国民に与えられます。日本と違って投票は国民の義務とされており、投票に行かない場合は選挙権が剥奪され、選挙権を再び得るのに 50 シンガポールドルの罰金を支払わなくてはなりません。そのため投票率は毎回非常に高く、直近の2015年9月の総選挙の投票率も 93.56%でした。
選挙区は 2 種類に分けられ、13の小選挙区(定数1)と、もう一つは、シンガポール独特の制度であるグループ選挙区で 16 の中選挙区(定数4~6)となっています。グループ選挙区では、得票数で一位となった政党がその選挙区の全議席を総取りする仕組のため、大政党に有利なシステムと言われています。
シンガポールは1965年の建国以来、与党のPAP(人民行動党)が大多数の議席を占めており、直近の2015年9月の総選挙でも89議席中83席を獲得しました。なお、シンガポールでは選挙によらずに選出される国会議員(有識者など)が12名いるため、総議席数としては101議席となっています。
2 シンガポールの新年度予算
シンガポール政府の予算年度は日本と同じく4月1日から始まります。そのため、例年2月頃に政府から予算案の発表があり、3月に可決されるスケジュールとなっています。しかしながら今回は総選挙後初の予算であることや財務大臣の交代等の諸事情もあり、3月24日の新年度直前に政府から予算案の発表がありました(例年より約1か月遅れ)。そして年度が明けた4月4日の国会から予算審議がスタート、4月14日に可決されるという異例のスケジュールとなりました。
なお、シンガポールでは予算案可決前でも、内閣の承認があれば前年度予算の4分の1を上限として政府の基金から支出できる規定があり、公共サービスに空白が生じないように備えられています。
今回、我々はこの新年度予算審議の初日である4月4日にシンガポール国会を傍聴しました。
3 シンガポールの国会の様子
シンガポールの国会は、日本の国会のような扇形の座席配置ではなく、3つの座席の列が議長・演台を挟んで向かい合うような対面式の配置となっています。一般的に扇形の議場の配置はドイツ式、対面式はイギリス式と言われており、歴史的にどういった国々から政治・立法制度面で影響を受けたかを表しているようです。
4 シンガポールの国会見学
シンガポールの国会は公開されており、外国人でも傍聴することができます。傍聴するためには当然、IDカードの提示や傍聴ルールの順守が求められますが、傍聴席への入退場は自由に行うことができ、広く門戸が開かれている印象を受けました。
その他、気づいたこととしては・・、
◇発言は議長に対して。
議員は相手の議員に向かって直接意見を言い合うのではなく、議長(Speaker)に向かってそれぞれが自分の意見を訴える形式です。例えば日本では「私はあなたの意見には反対です。なぜなら…」と2人称で議論しますが、シンガポールでは議長に対して「議長、彼はこう言いましたが、私はこう思います」と相手の議委について3人称で意見を述べます。これも座席配置と同様にイギリス式の方法で、旧植民地時代の影響がうかがえます。
各議員が意見を言う前に「Madam Speaker, thank you for allowing me to speak~~」と前口上を述べる部分が印象的でした(現在の議長は女性のため、まず「マダム」と呼びかける)。
◇さすが多民族国家の国会!
国会議員はほぼ英語で議論しますが、マレー系民族出身の議員の中にはマレー語で話す議員もいました。シンガポール国会には通訳者が常駐しており、マレー語・タミル語・中国語・英語の各言語を同時通訳する仕組みとなっています。各議員の座席と傍聴席のひじ掛けにはヘッドフォンが内蔵され、これを利用して同時通訳を聞くことができるため、使用言語が違う議員同士でも議論を交わすことができるようになっています。
シンガポールは国民の4分の3を中華系民族が占めていますが、少数派のマレー系やインド系の国民との融和を非常に重要視している国家です。この精神を国会運営にも見ることができました。
◇日本より若くて、女性が多い?
シンガポールの国会を視察した際に、日本の国会と比べて議員の年齢が若く、女性の割合も多いように感じました。実際のところ、日本の衆議院の平均年齢が53.0歳で女性比率が9.5%であるのに対し、シンガポールの国会議員(選挙区選出の89名)の平均年齢は48.4歳で女性比率は23.6%で、平均年齢は約5歳の違い、女性比率は日本の2倍の水準となっています。
※出典:内閣府男女共同参画局「共同参画」2015年1月号、Channel News Asia 「The Singapore Parliament: Facts and figures」15 Jan 2016