クレアシンガポール事務所は、沖縄市によるシンガポール動物園視察についてアポイントメント取得及び同行等の支援を行いました。世界的にも有名なシンガポール動物園、その運営方法についてご紹介します。
1 運営会社「Wildlife Reserves Singapore(WRS)」とは
シンガポールにはシンガポール動物園以外にも、ナイトサファリ、リバーサファリ、バードパーク等の動物に触れあえる施設があり、それぞれ特徴ある展示を行っています。いずれも国内外の観光客に人気の施設ですが、実はこの4施設は全て「Wildlife Reserves Singapore (WRS)」という一つの企業が運営しています。WRSには正規職員約1,000人、パートタイム約300人という多数の職員が在籍しており、日々施設の運営・管理を行っています。上野動物園や葛西臨海水族園など4つの施設を運営する「東京動物園協会」の職員数が430名程度であることと比べるといかに多くの職員が働いているかが良く分かります。
2 WRSの運営理念
WBSは「経営安定」と「環境保全」を運営の2大柱としています。前者は、訪問客に対して様々な経験を提供し、入園料に加え、レストランでの食事やお土産などによる収益増大を図り、経営を継続させることで、後者については、生物多様性の保護のための社会的役割を果たすということです。
「経営安定」のための試みには、入園料の見直しが挙げられます。4施設パッケージとして以前よりも安く売り出したところ、この3か月で売上が50%伸びているとのことです。また、企業向けのイベントの開催やオンラインでのチケット販売などにも取り組んでいます。
「環境保全」のための試みには、ペットボトルのミネラルウォーターの販売中止が挙げられます。現在、年間S$700万~800万の売上高がありますが、販売を中止し、代わりに無料で利用できる水のディスペンサーを園内各箇所に設置する予定です。収益確保の代替案としては、水を入れる容器の販売などを検討しているとのことです。また、レストランで提供する食事の食材は環境保全に取り組む企業から仕入れたり、密猟の対象となっている生物の保護に努めたりしています。
2015年10月に新しいCEOが就任してからは、特に「生物多様性の尊重や保護」ということを核に置き、経営理念を従業員が共有する取り組みが行われています。
3 WRSの財政事情
WRSのランニングコストに関しては、以前はシンガポール政府からの補助金収入がありましたが、2006年からは完全に独立しました。ただ、新しく観光客を集めることができるような新施設を建設する場合は、政府からの補助金がでるとのことです。政府からの補助金とWRSの自己資金の比率はケースによって異なり、ナイトサファリの場合、総額費用$6,000万のうち、75%は政府の補助金で、25%は自己資金であった一方、リバーサファリの総額費用$1億1,600万は全額自己資金であったとのことです。
4 今後の展望
2016年6月、WRSは敷地内に新しく2つ施設を建設予定であることを発表しました。1つは、現在離れた場所にあるバードパークを丸ごと移設させるものであり、もう1つは、レインフォレストパークという施設を新設するものです。ホテルも建設予定で、2025年完成を目指しているとのことです。
運営方法についても「ただ単にみせる」という考え方から、「動物が好きなように行動できるような環境を作る。動物、訪問客、飼育係が相互交流できるような機会をつくる。できるだけ自然のままの生態系を保てるような努力をする」という考え方へ変わってきているとのことでした。
シンガポール動物園は日本の動物園とも交流があり、現在、上野動物園、いしかわ動物園等と動物の交換等を行っています。世界各国から観光客を集めるシンガポール動物園の取り組みは日本の動物園運営の良い参考となるのではないでしょうか。