ベトナムには消費市場としての成長性、安い人件費、豊富な人材、安定した政治体制、親日的な国民性などにより、ハノイ市やホーチミン市を中心に多くの日系企業が進出しています。当事務所では、企業の新たな進出先として注目を集めるベトナム中部地域を訪問しましたので、日系企業の進出状況や今後の展望を中心に現地情報をお伝えします。
ベトナムには1,553社(2016年3月時点)の日系企業が進出しています。大部分がハノイ市を中心とする北部地域とホーチミン市を中心とする南部地域に集中していますが、近年は最低賃金の上昇や周辺各地でインフラ整備が進むなど、近郊の地方省への進出も増加しています。その反面、中部地域への日系企業進出数は105社程度と少ない状況です。ベトナム中部地域は、ベトナム第3の商業都市ダナン市を中心とする地域で、長く美しい海岸線とフエの歴史的建造物群やホイアンの旧市街など4つの世界遺産が存在し、これらの観光資源を活用したリゾート開発が進められています。人口は約2,500万人。中部地域の気候は高温多湿で雨量が多いため、北部及び南部地域と比べ自然災害が多く、そのことは中部地域の人々の性格に影響を与えており、忍耐強く、勤勉かつ倹約家と言われています。
中部地域は他の地域よりも経済発展が遅れてきましたが、ベトナム政府の方針により重点的な開発が行われており、ダナン空港の近代化、ダナン~クアンガイ高速道路、クアンナム省のチューライ開放経済区など、ODA関連の大型公共投資を中心にインフラの整備が進められています。
中部地域最大の都市であるダナン市は国際空港や国際港湾を有しており、ベトナムからミャンマーまでを結ぶ東西経済回廊の東の玄関口となっています。また、2017年11月には、APEC(アジア太平洋経済協力)が開催されるなど、近年注目を集めています。ダナン市への日系企業の進出状況は目下95社程度ですが、10年前は数社程度の進出であったことから、着実にその数は増加しています。ダナン市当局も、積極的な企業誘致に取り組んでおり、そのためにはインフラの整備が最重要課題と位置づけ、ダナン駅の移転、貨物専用港湾の整備、新国際ターミナルや高速道路の建設など行っています。またダナン市には、進出企業に対して多くのメリットを提供できる5つの工業団地とダナンハイテクパークがありますが、その他にも、現在日系企業専用の工業団地を整備する計画も進んでいます。
ダナン市から約70kmの距離にあるクアンナム省(省都タムキー市)は、ベトナムの中南沿岸部に位置し、人口約150万人を抱える省です。古くからベトナム南北及び世界各国の文化が交じり合う土地として栄え、日本とも繋がりの深い古都ホイアンで知られています。また、鉱産、森林、海岸といった天然資源が豊富であり、農地は総面積の70%を占めています。沿岸部に位置するチューライ開放経済区は、2003年にベトナム初の開放経済区としてベトナム政府から認定された経済区で、クアンナム省並びに中部地域の経済拠点として、2020年までの工業化を推進しています。進出企業に対しては、法人税や借地料の減免など、ベトナム最大の優遇施策を有しています。クアンナム省への日系企業の進出数は数社と少ない状況ですが、クアンナム省は地理的優位性、豊富な資源や人材、魅力的な優遇政策をアピールポイントとし、国内外で投資セミナーなどを開催して、企業誘致に取り組んでいます。
中部地域に進出している日系企業担当者からは、中部地域進出にあたってのメリットとして、安い人件費、豊富な人材、治安と生活環境の良さ、そして政府当局や国民の日本人・日系企業に対する理解やサポートを挙げました。一方、デメリットとして、現地調達率の低さが挙がり、現に中部地域には、部品調達のいらない自己完結型企業が多く進出しています。ダナン市当局などは裾野産業の誘致や育成に取り組んでいるものの、一朝一夕で解決できる課題ではないことも事実であります。進出の際には、メリットばかりに目が向きがちですが、その点の検討や対策にも目を向ける必要があります。