経済発展が著しいインド市場は、日本の企業にとって魅力的な市場の一つです。インドへの関心がますます高まる中で、インドとの交流をさらに拡大させるために、山陰地方の「中海・宍道湖・大山圏域市長会(会長:出雲市長)」及び同圏域内の20の商工団体で構成する「中海・宍道湖・大山ブロック経済協議会」がそれぞれインド南部のケララ州政府及び印日商工会議所ケララ(INJACK=INDO JAPAN CHAMBER OF COMMERCE KERALA)との間で経済交流拡大を目指す覚書(MOU)を2015年12月に締結しました。
その交流の一環として、圏域市長会及び経済協議会のメンバー、さらにはこれらの団体とケララ州政府等との調整・コーディネート役を担っている「山陰インド協会」のメンバー(以下、「視察団」という)が2017年2月2日から5日にかけて、ケララ州を訪問し州政府等と交流を深めるとともに、同州で開催された産業展に参加しました。
山陰経済が規模を維持、拡大していくためには、インドなどの新市場の開拓が必要不可欠という認識のもと、2013年に山陰地方の経済界が中心となって、経済や文化などの日印交流を目指す「山陰インド協会」が設立され、同年から同協会が旗振り役となってインドへの経済視察団の派遣が開始されました。その中で、山陰地方と以下のような共通点を有すことから、ケララ州が経済交流の候補先として選ばれました。
①観光やIT、漁業、農業などが基幹産業である点
②海岸線や湖沼、山間部を有す地理的ロケーション
③「水の都」・「神の国」と称される点
また、海外技術者研修協会のインド人卒業生の活動が盛んな地域であることに加え、当時の駐日インド大使がケララ州出身であったということもケララ州を経済交流の適地に選んだ理由の一つです。
その後も年1回のペースでケララ州に視察団を派遣し政府関係者らと交流を深めるとともに、JICA(国際協力機構)の中小企業海外展開支援事業を活用し、圏域内の2つの企業がケララ州等において廃棄物処理技術や水質浄化技術の導入のための調査事業を開始しました。またIT人材の交流も実施するなど、具体的な経済交流・人材交流を図ってきました。
そして2015年12月に、圏域市長会及び経済協議会がそれぞれケララ州政府及び印日商工会議所ケララとの間で幅広い経済交流の推進を目的とした覚書が締結されたのです。この覚書については、経済界と行政の二本立てで調印しており、経済界が企業同士の結びつきや進出を調整し、行政が側面から様々なサポートを実施することは、両国の企業進出や技術者育成などの人的交流を進めるうえで大きな意味を持っているといえるでしょう。
山陰地方とケララ州双方の企業進出や投資の促進を目的に、市長会圏域内在住者が開発したプログラミング言語「Ruby(ルビー)」をテーマにしたIT交流が活発化しています。この人材交流の窓口を担っている組織がINJACKであり、2017年1月27日にINJACKがRubyの技術者を育てる「国際Ruby研修センター」を日本ケララセンター内に開設しました。同研修センターでは、ケララ州内の約170もの工科系大学の学生やIT企業で働く技術者を対象に、Rubyを使ったプログラミング講座を2017年2月から開講する予定です(定員30~40人程度)。また、講師は当面の間はインド人のエンジニアが務めるそうですが、将来的には山陰地方のIT企業の日本人技術者2人程度が常駐して指導をすることを計画しており、すでに受講予定者が多数いるとのことでした。将来的にはRubyを活用した山陰地方のIT企業の進出やケララ州内のIT企業の山陰への進出も期待できるかもしれません。
市長会圏域はIT産業の振興に力を入れていることから、ケララ州内にあるインド最大かつインド初のITテクノパークを訪問しました。州政府の主導により設立された本テクノパークには国内外の320社を超えるIT企業(うち30%以上は外資系企業(主に、北アメリカ、ヨーロッパ、東南アジア、中東の国々に本社を置く法人、日系企業は未進出))が進出しており、計50,000人以上が勤務しています。
今回は、本テクノパーク内の「QUEST」という企業からITテクノパークの概要や会社概要についてブリーフィングを受けました。この企業は、アメリカやヨーロッパ(イギリス、ドイツ、スイス)のほかに、シンガポールや日本(東京・横浜・大阪)など計11の国に35の活動拠点、8,000人以上の従業員を有している法人で、航空・エネルギー・メディカル産業などの分野においてソフトウェアサービスを提供しています。同企業の特徴的な取り組みとして、日本のエンジニアとのコミュニケーションを円滑にすることに加え、日本国内の顧客の増加を見越して、社内において定期的に日本語教室を開催していることが挙げられ、今後はますます日本の顧客を増やしていきたいと担当者は意気込んでいました。
ケララ州政府が主催するこのイベントは同州最大規模の産業展で、小売り・メーカーなど計200以上のケララ州内の企業が出展していました。また、アジアやヨーロッパ、北米地域に加え、中東やアフリカ諸国など世界32ヵ国、計650名を超すバイヤーが参加しました。今回は、覚書の締結一周年を記念するとともに、圏域内企業と同州とのさらなる経済交流を促進するため、同圏域内から環境ビジネスの進出を図る3社(松江土建株式会社、三光株式会社、大成工業株式会社)及びマッサージチェアの普及を図るファミリーイナダ株式会社の計4社がこの産業展に参加しました。
急激な人口増と都市化により多くの環境問題が顕在化している状況を背景として、多くの来場者がブースを訪問し、各企業の技術力の高さに関心を示すとともに、いかに日本が環境に配慮した製品を製造しているかということを知って驚いている様子でした。また、インドではマッサージチェアを見たことのない人が非常に多いようで、最新鋭の機器を体験しようと長蛇の列ができるなど、期間中は多くの来場者が山陰地方の高い産業技術に関心を寄せていました。出展者からは、「インドでは環境ビジネスにおける需要が高まっていることを痛感すると同時に、山陰にもいい技術があることを知ってもらえた。今後は、当社の持つ製品をいかに安く生産し、いかに良いビジネスパートナーを見つけられるかということが重要」と期待を込めて語っていました。また、別の担当者は「富裕層の健康志向が強いことを肌で感じることができた。インドへの進出を果たしたい」と意欲的な姿勢を見せていました。
また、同会場での産業展視察に併せ、訪問団はA.C.Moideen州産業大臣らと懇親する機会があり、さらなる経済交流拡大に向けた両圏域の連携強化の必要性を確認するなど、交流を深めました。
中海・宍道湖・大山圏域市長会及び中海・宍道湖・大山ブロック経済協議会の両者は、インド諸都市のニーズと山陰が持つ高い技術を結びつけることで、都市に共通する課題の解決と相互のビジネスチャンスの拡大を目指しています。今回の山陰ブースでは、インドが抱えている課題と圏域企業の技術が結びつき、都市の課題解決へ向けた取り組みの一端を見ることができました。
山陰地方とケララ州との交流のように、企業が有する優れた技術や知恵が都市課題を解決する選択肢の1つとなるよう、自治体と企業が同じ目線で連携することが今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。