2017年7月2日から8日にかけて、当協会三枝理事を団長として、タイ及びミャンマーにおける自治体の活動状況及び日系企業の進出状況視察を行いました。タイプラスワンとして自治体や企業の関心が高まっているミャンマー(ヤンゴン及びマンダレー)へは、中小企業の海外進出の支援に取り組んでいる、東京都立産業技術研究センターの内田聡所長及び東京都中小企業振興公社の堀切川祐子所長にも同行していただき、活発な意見交換を行い、有益な視察とすることができました。
JICAタイ事務所では、自治体や民間の進出状況について聞き取りを行いました。タイでは自治体がJICA事業を利用して技術支援を行っている事例が多くあり、例えば埼玉県がシラチャーの下水処理場で官民一体となった支援を行っています。また、福岡県は、タイ国内の複数の自治体で、「福岡方式」と呼ばれる廃棄物埋立処分場の導入を支援しています。上下水や廃棄物のような分野で自治体が関わることで、より重層的な支援が可能となり、タイにおいては自治体が参画する草の根事業の存在が大きいとのことでした。JICAは、近年中小企業との連携にも力を入れており、医療廃棄物処理分野で企業と連携して支援を行った事例の紹介もありました。
今年は日タイ修好130周年に当たり、佐渡島駐タイ日本国大使も、「ビッグビジネス同士だけでなく、自治体や中小企業といった多様なチャンネルで裾野の広い交流を行うことにより、二国間関係の深化に繋げたい」という発言をされています。JICA事業を活用することで、自治体や中小企業がタイに進出するきっかけをつくることが可能です。クレアシンガポール事務所も、JICAとの連携をますます強化し、自治体の海外展開支援に繋げていきます。
ミャンマー第二の都市マンダレーでは、ミャンマー日本人材センター(MJC)マンダレー事務所を訪問しました。MJCは、日本のODAの一環で、日本政府、JICA、ミャンマー商業省、ミャンマー商工会議所連合会が共同で設立した人材育成支援を目的とする機関です。ミャンマーでは、経営者や管理職層の人材が不足しており、MJCでは、いずれ見込まれるASEAN内での競争に対応できる人材を育成するべく、ミャンマー人経営者等に日本式経営を指導しています。受講者は2013年の時点で734人でしたが、2017年には3600人にまで伸びたとのことです。MJCで学んだ企業経営者たちは、今後、日系企業がミャンマーに進出する際の良きパートナーとなることが期待されます。
MJCでは、経団連等の協力のもと、優秀な受講者を日本に派遣し、企業マッチング等も行っています。このようなMJCの事業をきっかけとして結びついたのが、MJCを卒業したマンダレーの経営者と宮崎県延岡市の企業経営者の方々です。
2015年に延岡市の経営者がミャンマーを訪問し、MJCのネットワーキングコースを活用してミャンマー人経営者と交流しました。一時的な交流で終わる事例が多い中、延岡市は、継続的な交流を見据えて、インターンとしてミャンマー人材を受け入れました。以降、マンダレーと延岡の交流は途切れることなく続き、2016年11月にマンダレーに宮崎県北地域の企業情報や観光情報の発信を行う「ノベオカフェ」がオープンしました。「ノベオカフェ」はミャンマーにおける初めての自治体の拠点です。海外に活路を見出そうとする延岡市と技術支援や投資を期待するミャンマーのニーズが合致し、Win-Winの関係を築くことができたこと、また、交流のきっかけを最大限に活用する延岡市の覚悟と工夫があったことが、ここまで大きな成果を挙げる要因であったと言えます。
MJCでは、延岡とマンダレーのような地方レベルでの交流の機会を増やしていくことを目指しています。得意分野を活かし、MJCと連携して、ミャンマーへの進出を検討されてはいかがでしょうか。
ヤンゴンでは、ジェトロヤンゴン事務所、JICAミャンマー事務所、在ミャンマー日本国大使館、日系企業の進出を支援する株式会社ジェイサットコンサルティングを訪問し、ミャンマーの政治や経済、投資環境について意見交換を行いました。
ミャンマーは、2011年の民政移管を経て、2016年に約半世紀ぶりの民主政権が誕生しました。当初アウン・サン・スー・チー政権には大きな期待が寄せられましたが、少数民族問題で進展が見られないなど国際社会から厳しい目が向けられることもあります。しかしながら、これは未だ政治に軍の影響が残るとともに、インド、タイ、中国といった大国に囲まれる地政学的に難しい位置にあって、バランスを取りながら政権を運営しているためであるようです。政治的に大きな進展を見るには、まだ長い時間が必要であると思われます。
経済面においては、国際的な経済制裁が解除されて以降急激に発展しています。今後もまだまだ成長が見込まれ、例えば現在の人口ピラミッドを見てみると、10歳から14歳の人口が最も多く、10年後の人口ボーナスが期待できます。ジェトロによると、2050年にはタイや韓国と同等の7000万人弱まで人口が増加することを見込んでいます。実際は数字以上に勢いがある印象があり、ベトナムは経済発展に10年かかりましたが、ミャンマーはそれほど時間を要しないのではというお話もありました。
そのような状況の中、ミャンマーに対する外国投資は、ティラワ経済特区を除き、2011年以降、約7倍にまで増加しています。日系企業の進出も進んでおり、2011年の民政移管直後に進出してきた企業が、準備を経て現在ティラワ等で工場の操業を開始しているとのことです。現在、進出企業の多くが安定的に利益を出せる段階になく、6割程度が赤字であるとのことでしたが、それにもかかわらず、さらなる事業拡大の意向を持つ企業が他国と比較して多く、企業が希望をもって事業展開に取り組んでいることがよくわかりました。
しかし、課題も多くあります。筆頭に挙げられるのが電気、道路等のインフラですが、停電が頻発し、電圧も安定しないため、電力を多く使う業種や機械類の安定的な運用が必要な業種は進出をためらう一因となっています。道路についても、大きな穴が開いて放置されており、トラックが通れないこともあります。また、重篤な病気やけがの場合はバンコクまで行かないと治療ができず、駐在員を派遣するにあたっては医療面での不安も残ります。加えて、日系企業が直面するのが、人材確保の問題です。ミャンマー人は勤勉で真面目であり、日本人と理解しあえる人柄であることは確かである一方、長期にわたり鎖国のような状態にあったため、日本人にとっては当然と思われる技術や、組織とはどんなものかということについて知見がありません。例えば、ATMやクレジットカードを知らなかったり、組織内でうまくいかないとすぐに辞職したりすることがままあるそうです。そのため、良い評判だけを聞いて進出してきた企業は、ギャップに驚くことが多いようです。その場合、何も知らないことを前提として一つ一つ丁寧にコミュニケーションをとることが重要です。一例として挙げられた企業では、まず食事を提供し、通勤用の自転車を貸与することにより健康管理の大切さを教え、またシャワー室を設置して清潔にすることを教えるなど、地道な取組を積み重ねた結果、現在では人材が定着し、安定的な稼働が可能となっているそうです。
ヤンゴンでは現在、外資企業の進出により人材の取り合いが激化しており、給与相場も上がっています。特に即戦力になり得る経験者は外資企業と現地企業の両方にニーズがあり、マネージャークラスの給与は月10,000米ドルに達しています。
ミャンマーを市場として見た場合、日本企業は最高の品質を目指しがちですが、高品質なものを高価格で販売しても現時点ではほぼ売れないとのことでした。品質の大幅な向上よりも、「少し便利になった」「手が届くようになった」というような、生活をほんの少し良くしてくれる商品やサービスが求められているようです。
今回は、日本政府が開発を支援するティラワ経済特区(SEZ)も訪問し、現地の状況を視察するとともに、実際に進出している企業から経験に基づくお話を伺うことができました。ティラワSEZ内では、デベロッパーである「Myanmar Japan Thilawa Development Ltd」、「Daizen Myanmar Co., Ltd」そして「Acecook Myanmar Co., Ltd」を訪問させていただきました。
ティラワSEZはヤンゴンから約20Kmの距離にあり、地理的に優位な立地です。しかし、交通量に比較して道路が狭く、今回訪問した際は、渋滞のため移動に1時間半ほどかかりました。また、整備状況も悪くかなり揺れを感じ、道路インフラの脆弱さを実感しました。
ミャンマーへの進出を決断した理由の一つとして、ミャンマー政府の姿勢が挙げられました。政府は投資を呼び込み国を発展させたいという強い意志を持っており、例えばティラワSEZ内では外国人ビザの発給が2日で完了する(通常の手続きでは2か月程度かかる)など、具体的な施策として表れてきています。
ミャンマーは、街中にあるものすべてが輸入品と言えるほど、国内で何も製造していないとのことでした。プレス機や射出成型機もないので、そのような企業が進出すれば注文が殺到する可能性があり、中小企業にとってはチャンスが多いと考えられます。また、初めての海外拠点がミャンマーであるという企業にとっては、東南アジアへの進出を検討する中で、参入企業が少なかったため、新規顧客の開拓が期待できることがミャンマー選択の理由となったとのことです。さらに、Acecook Myanmar Co. Ltdによると、ミャンマーは主にタイから即席めんを輸入しており、ミャンマー独自の味がまだ存在していないことから、商品開発を進めて市場に参入していくとのことでした。このように、ミャンマーは現在「何もない」状態であり、そこに進出の機会があると言えます。一方で、日本の中小企業の多くはピラミッド体制に組み込まれており、そのような企業にとっては、進出は困難かもしれません。また、何もない状態に対応できるだけの体力も必要となり、事業を軌道に乗せるまでの時間も要することから、容易な道ではないことも確かでしょう。
進出にあたっての課題としては、まず法整備が不十分であることが挙げられました。大企業が進出する際は、管理部門とのやり取りで困難を感じることが多いようです。その点は中小オーナー企業のほうが容易に手続きを進められるかもしれません。また、建設資材もすべて輸入する必要があるなど、初期費用も当初の想定を大きく上回ったとのことでした。さらに、電力の問題についてはここでも触れられ、例えば、停電によって1秒から2秒ラインが止まることにより20万円程度の損失が出てしまうとのことです。
人材確保も悩みどころであり、作業に関する知識がないため一から指導する必要があります。また、食品を取り扱う企業では従業員の衛生管理にも配慮し、シャワー室と洗濯室を設けたところ好評であるとのことでした。
海外展開を模索する自治体や、企業の海外進出を支援する自治体にとって、東南アジアは今最も魅力的な進出先です。特にミャンマーについては、今回話を伺った多くの方が、「簡単な道ではないが、見通しは明るい」と口をそろえていたことが印象的でした。
タイにおける事例のような自治体による技術支援は、関連企業へ裾野を広げることが可能であり、ひいては地域の活性化に結びつけることができます。また、ミャンマーのように魅力的ではあるものの、中小企業にとってはまだまだハードルの高い進出先については、延岡市の事例のように自治体と企業の連携によりアプローチすることも有効な方法だと言えるでしょう。
地域の企業の心強い味方として、自治体の海外進出支援にもこれまで以上に工夫が求められています。クレアシンガポール事務所では、現地の情報を引き続き収集し、自治体の活動を支援していきます。