山陰地方の自治体ほか産学官で構成する「インドIT人材確保・企業連携事業実行委員会」は、2017年11月28日から12月2日にかけて、インドのIT市場調査を実施。松江市の星野副市長を団長に、島根大学、圏域IT企業9社、JETRO松江事務所、JETRO鳥取事務所、山陰インド協会の各職員等による視察団をインド・ケララ州に派遣しました。
今回、クレアシンガポール事務所は、視察団に同行し、その活動を支援・取材しましたので、その様子を報告します。
いま、山陰地方の中海宍道湖圏域でインドとの経済交流を探る動きが活発化しています。
2013年に山陰地方の経済界が中心となって、経済や文化などの日印交流を目指す「山陰インド協会」を設立。同年から同協会が旗振り役となってインドへの経済視察団の派遣が開始されました。そして、「中海・宍道湖・大山圏域市長会(会長:出雲市長)」及び同圏域内の20の商工団体で構成する「中海・宍道湖・大山ブロック経済協議会」がそれぞれインド南部のケララ州政府及び印日商工会議所ケララ支部との間で経済交流拡大を目指す覚書(MOU)を2015年12月に締結しました。
また、2016年度にはIT企業の人材確保や海外販路の拡大を目的に、圏域企業でのインターンシッププログラムを実施しました。このプログラムにはインドの学生やエンジニア計11人が参加し、松江、出雲両市のIT企業6社で松江発のプログラミング言語「Ruby(ルビー)」を使ったプログラミング作業などを体験しました。さらに、その後このうちの1人が、松江市内のIT企業に就職しました。
こうした具体的な人的交流をさらに加速させるべく、2017年9月には島根県や松江市、島根大学、山陰インド協会、県情報産業協会など産学官11団体が中心となって、圏域内のIT企業とケララ州との人材交流の拡大を目指す「インドIT人材確保・企業連携事業実行委員会」(委員長・浜口清治島根大教授)が発足し、今回のケララ州訪問につながりました。
社会や経済のグローバル化が進展し、世界的に留学生を含む人的交流が活発化する中で、優秀な留学生を数多く受け入れることを通じて、大学の教育や研究の質を高めていくことがますます重要になってきています。海外からの優秀な学生を数多く受け入れるためには、交流の機会を現地の大学に対して提供することに加え、大学の魅力や日本へ留学することの意義などを学生に理解してもらうことが必要不可欠です。そのため、視察団は州内の2つの大学と交流協定を締結するとともに、留学生フェアに参加しました。
島根大学とケララ州にあるコチ理工大学は、高齢者医療分野における相互の強みを生かした研究を共同で実施し、さらには両大学間の学術交流を拡大するため、2016年5月に大学間協定を締結しました。本協定締結により学術的な交流が着実に進展しているところではありますが、今回は学術交流のみならず、留学生の受け入れを促進することを目的に、学生交流協定を締結しました。また、島根大学は州内のラジャギリ工科大学と大学間協定及び学生交流協定を締結しました。
いずれの大学からも日本語の講座を展開していきたいものの、適任者がおらず実施ができていないといった相談がありました。大学で日本語を学ぶことができれば、学生が日本へ留学した際に大きなメリットとなるため、島根大学が中心になって教師の確保等に向けて両大学と協議を進めていくことになりました。
視察団は、コチ理工大学内及びコチ市の大型商業施設内の2か所で同時開催された留学生フェアに参加しました。このフェアには東京大学、新潟大学、桜美林大学、立命館大学、島根大学の計5大学が参加したほか、自社製品をPRする日系企業も数多くブース出展していました。
大学内で開催されたフェアでは、留学後の就職先としてのPRのため、圏域内のIT企業3社が参加者に対してプレゼンを実施し、会場の学生約250名の注目を集めていました。また、IT企業のプレゼン後には、学生約100名が当該IT企業ブースに集中し、山陰の風土や企業の特色、労働環境といった将来の就職を見据えた個別具体的な質問が担当者に投げかけられるなど、学生のIT企業への関心の高さが伺えました。
人的交流の拡大に向けた取り組みに加え、IT企業間の業務提携につなげることも今回の視察団の訪印の目的の一つです。
そのため、視察団はケララ州で開催された「JAPAN MELA」(日本フェア)(主催:印日商工会議所ケララ支部)と呼ばれる日本の優れた技術に裏打ちされた高品質の製品やサービスを余すことなく伝える産業展兼B to Bの商談会にも参加しました。
開会式では、平松駐インド日本国特命全権大使や前在ドイツインド大使、ケララ州産業開発公社専務などから挨拶がありました。平松大使は、観光・サービス・IT・食品加工・環境などの分野において、日本とケララ州の経済交流が広がっていくことが期待される旨言及されました。
開会式の後は、圏域IT企業各社が10分程度のプレゼンを実施し、その後に参加企業との商談の場が設けられました。商談会では来場者が山陰地方の有するIT技術に高い関心を寄せていたことが印象的でした。また、商談を通して、圏域IT企業もインドのIT企業のレベルの高さやマネジメントなどに強い興味を抱いている様子でした。この商談会では、オフショアー開発サービスや生産管理システム、3Dプリンター製品の商談が実を結ぶなど目に見える成果がありました。
このように、中海宍道湖圏域では産学官が一体となって、IT分野に特化したインドとの交流拡大に向けた取り組みを推進しています。
経済発展が著しいインドは、日本の中小企業にとって魅力的な市場の一つでありながらその実情はあまり知られていません。インドと日本の地方自治体がどう相互にメリットのある交流を進めていくか。山陰地方の産学官の連携した取り組みは一つの好事例と言えるかもしれません。
(安田所長補佐 島根県派遣)