兵庫県の井戸知事がタイを訪問し、2018年11月4日から8日の日程でパタヤ市にて開催された「第12回EMECS会議(世界閉鎖性海域環境保全会議)」に、兵庫県議会訪問団らとともに参加。クレアシンガポール事務所では、同行支援を実施しました。
EMECS(Environmental Management of Enclosed Coastal Seas)会議は、閉鎖性海域の環境管理について同じ課題を抱える国や地域が集い、情報交換を行う場として、兵庫県の提唱により実施されています。第1回を1990年に神戸で開催し、その後世界各地で概ね2~3年毎に開催され、今回は第12回目の会議となりました。
また、1994年には、EMECS活動を推進する国際機関として「国際エメックスセンター」が兵庫県、大阪府、和歌山県、徳島県、大阪市、神戸市、民間団体により設立されました。理事長には兵庫県知事が就任し、国内外の科学者や閉鎖性海域に関わる団体の代表者の参画を得て運営されています。
瀬戸内海は、閉鎖性海域の環境保全では世界で有数の成績をあげている海です。公害による「瀕死の海」からまず「きれいな海」を実現し、さらに「豊かで美しい里海」として再生しようとする取組が進められています。
里海づくりは、人々と自然の交流を通じて生態系が維持される里山と同様に、瀬戸内海のような閉鎖性海域で自然環境を保全しつつ、人手が加わることで豊かさを増した水産資源により沿岸域での生活が維持されるという、人と海との相互関係を再生する試みです。
海外では、2006年にフランスで開催された第7回EMECS会議において、初めて里海の概念が紹介され、人間社会と沿岸域の共生・共存のための合理的なビジョンとして注目を集めました。
その後、2008年に中国で開催された第8回EMECS会議では、初めて里海ワークショップが開催され、持続可能な沿岸域管理のため世界中で実践されている事例についての議論を通じて里海の概念が深められました。
第9回以降今回の第12回EMECS会議に至るまで、里海セッションは常に注目度の高い分科会として開催されています。2013年にトルコで開催された第10回EMECS会議での里海セッションの様子は、2014年3月に放送されたNHKスペシャル「里海SATOUMI瀬戸内海」でも紹介されました。
里海の概念は、EMECS会議を通じ統合的沿岸域管理の最終ゴールとして共感と支持を集め、世界に広まりつつあるようです。
今回のEMECS会議における「里海と統合的沿岸域管理セッション」では、日本人から6件、外国人から3件の発表が行われました。このうち、インドネシア政府技術評価応用庁から報告された同国における里海活動について、簡単にご紹介します。
1980年代、インドネシア沿岸域では過度に集中的なエビの養殖活動が行われるようになり、沿岸環境が悪化。エビの生産性も4分の1にまで低下しました。インドネシア政府は、地域における沿岸域資源の利用問題を克服するため、資源と環境のバランスと持続可能性が考慮された里海コンセプトの実施が必要と判断。2013年以降、里海コンセプトの社会的普及に向けて、ワークショップの開催、研修の実施、デモンストレーション計画の開発等に取り組まれています。それらは、人間にとっての豊かさを向上するため、沿岸域の資源を調和的かつ生産的に管理するという新しいマインドの普及を図る里海コンセプトの応用であり、インドネシアの沿岸域で徐々に拡大しているとのことです。
閉鎖性海域は世界各地に存在しています。汚染物質が溜まりやすい特性から、特に急速な工業化を遂げつつある国をはじめとして、特有の課題発生が今後も見込まれます。里海の概念と取組が、今後さらに様々な国や地域へと広がることが期待されます。
また、地中海やエーゲ海、そして今回の開催地となったタイのパタヤ市など、閉鎖性海域は穏やかで風景が美しく、その多くには古来リゾート地が形成されてきました。今後日本では、里海づくりのストーリーが沿岸域のブランディングに寄与することで、観光地としての魅力も高まっていくのではないでしょうか。環境負荷にも配慮したスローツーリズムが今後静かに盛り上がっていくのか、期待を込めて注目したいと思います。