当事務所が実施している自治体国際協力専門家派遣事業は、日本の自治体職員を現地に派遣し、講義や実技を通して日本の地方自治体が持つ行政のノウハウを伝える事業です。海外の自治体などの行政資質と技術力の向上、人材の育成に資するとともに、日本の地方自治体と海外の地方自治体との友好協力関係の強化を目的としています。
今回は2018年12月3日(月)から12月7日(金)までの5日間、美しい松の維持管理方法及び松を用いた景観造成の専門家として千葉県職員をフィリピンのバギオ市に派遣しました。
バギオ市はフィリピン北部、標高1,540mの場所に位置します。涼しい気候に恵まれていることから「夏の避暑地」としてフィリピン国内では大変人気の観光地であるとともに、国内で唯一ユネスコより「創造都市」の認定を受けています。
また、市内には世界的に見ても大変希少なバギオ松が多数生息し、「松の市」と呼ばれています。その一方で、建物及びインフラの開発や経済発展等により松の木の伐採が進んでいます。
そこで、今回バギオ市より、日本庭園にみられる盆栽のような美しい松の木の造成・剪定方法をご指導いただくことで、市内の景観を改善するともに、「バギオ松」を市民の誇りのものとして復活させたいという要請があり、専門家を派遣することになりました。
まず最初に専門家は市内のバギオ松を視察するとともに、市の担当者からバギオ松の成長サイクルについての説明を受けました。また、意見交換を通してバギオ市の現状及び日本の松との違いを確認しました。
その上で、翌日からの講義及び実技研修は、下記の4つのテーマを基に行われました。
日本の美しい松の造形は、日本人が持つ美しさの感性に起因しています。その日本人の美意識について日本庭園を通じて紹介しました。また、日本庭園が世界で注目され、世界から絶賛されるのは、自然を基調とした五感に訴えるものであり、本来、人間が持っている美的感性に富んでいるからであると述べました。
育った環境によって松の樹形は異なること、また、自然に逆らわない樹形は究極の美であり、数百年に渡り生き続ける松の壮大な姿を小さく表現したものが盆栽であることを伝えました。
その上で美しい松の盆栽の仕立て方の種類を紹介するとともに、実際にどのようにして造形していくのかを実技実習を通して指導しました。
美しい松の維持管理をするためには、松の成長サイクルを知り、そのサイクルに合わせた維持管理をすることが大切であると述べました。
美しい松をどのように活かしていけば良いかについて日本の事例を用いて説明しました。また、バギオ松の景観造成や維持管理には費用はかかりますが、世界的にみてもバギオ松は大変希少であり、それ以上の経済効果を生む可能性があると伝えられました。景観造成において何よりも重要なことは、バギオ市民の松に対する愛着であり、市民の松への愛着は景観造りの機運を高め成功へと導くだろうと締めました。
美しい松を造形するには長い期間が必要となります。参加者から「今回は盆栽作りのスタート地点に立ったに過ぎない。今回教えていただいたことを活かして美しいバギオ松を造っていきたい」とのコメントがありましたので、今後は、参加者一人一人が誇りを持ってバギオ松を管理し続けることで、市内の景観の向上、更には、観光産業の発展が期待されます。
自治体国際協力専門家派遣事業は、国際交流、国際協力のみならず海外への自治体 PRにもつながります。自治体の皆さまにおかれましては、ぜひ同事業をご活用ください。
(参考 URL:http://www.clair.or.jp/j/cooperation/special/index.html)