2019年6月4日(火)から7日(金)まで、世界銀行の主催による気候変動対策をテーマとする国際会議「Innovate 4 Climate」がシンガポールにおいて開催されました。この会議の中で、埼玉県が推進する「目標設定型排出量取引制度」が温室効果ガス削減対策における市場の活用という観点から高く評価され、パネルディスカッションのパネリストとして事例発表を行いました。クレアシンガポール事務所ではその同行支援を行いました。
「Innovate 4 Climate」は今回で3回目の開催で、第1回は2017年にバルセロナ(スペイン)、第2回は2018年にフランクフルト(ドイツ)で開催されました。アジアでの開催は今回のシンガポールが初となります。
1.埼玉県の取組事例発表
パネルディスカッションでは埼玉県環境部の安藤宏副部長が登壇し、東京都(早稲田大学 有村俊秀教授)、中国、韓国からの発表者とともに事例発表を行いました。埼玉県が2011年度から取り組んでいる目標設定型排出量取引制度は、大規模事業所を対象に県の定める目標削減率をおおむね5年間で達成してもらう制度で、産業界・経済界との間で丁寧な協議や説明を重ねることにより、第1計画期間(2011~2014年度)は目標削減率を大きく上回る成果を得られたことを発表しました。
埼玉県の取組は目標削減率を達成できなかった場合の罰則規定がないことが大きなポイントであり、罰則がなく制度が機能していることについて会場や他の発表者から驚きの反応が多く寄せられました。埼玉県では、制度導入時においても事業者と十分な意見交換を行い、導入後も各事業者の詳細なデータを収集、蓄積し、きめ細かく具体的な助言を行ったことで事業者の信頼を得ることができた結果、行政と事業者がCO2削減という同じ目的に向かって取り組んでいることを説明しました。
2.シンガポールにおける環境への取組
シンガポールは経済発展と同時に環境都市を目指す取組を推進しており、現在は「Sustainable Singapore Blueprint 2015」という基本方針のもと緑化、水辺空間、環境にやさしい移動、コミュニティからの貢献、資源の持続可能性、大気の質について目標値を定め取り組んでいます。また、2019年6月からASEAN地域初の炭素税(年間25,000 トン以上の温室効果ガスを排出する事業者に対し、CO2 排出量1トン当たり S$5を課す)の導入を行ったほか、今回の会議と同時開催されたイベントにおいて、2021年までに世界最大級の浮遊式太陽光発電システムをシンガポールのTengeh貯水池に設置する計画を発表するなどの積極的な取組を行っています。
3.日本の取組の発信
今回の会議では、事業者側の排出量取引制度への対応について関東グリコ(埼玉県)、森ビル(東京都)がパネラーとして事例発表を行ったほか、日本の環境省と国際協力機構(JICA)がJCM(2国間クレジット制度)※について発表を行うなど、日本の先進事例を世界に発信する機会が多く見られました。今回の会議で共有された知見を各都市の環境政策に還元されることが期待されます。なお、次回は2020年にスペインでの開催が予定されています。
※JCM(2国間クレジット制度)とは
途上国への優れた低炭素技術・製品・システム・サービス・インフラ等の普及や対策実施を通じ、実現した温室効果ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価し、日本の削減目標の達成に活用する制度。現在日本はASEAN地域など計17か国との間で事業を実施しています。