シンガポール事務所では、中小企業の海外展開促進に取り組む自治体の支援に力を入れています。所管国のなかでも、インドネシアは人口がASEAN最大の国であり、1,500社以上の日系企業が進出しています。また、ジャカルタ都市高速鉄道(MRT)、パティンバン新港などインフラの開発によりますますの発展が期待されています。今後の自治体による中小企業支援の参考にするため、2019年7月、当協会鳥田理事を団長とし、東京都中小企業振興公社タイ事務所長及び東京都立産業技術研究センターバンコク支所長とともに、ジャカルタとジョグジャカルタの日系機関や工業団地、現地政府等を訪問しました。東京都中小企業振興公社は、2015年にタイ事務所を立ち上げ、2017年にインドネシアデスク、2018年ベトナムデスクを立ち上げました。また、東京都立産業技術研究センターバンコク支所でも技術面での相談を受け付けており、ASEANに進出した企業を現地でサポートしています。今回の訪問では、各機関や企業において、両機関の積極的な活用も呼びかけました。
1 インドネシアへの投資の関心は高まる一方
行程中、在インドネシア日本国大使館、Tokyo SMEサポートデスク、インドネシア投資調整庁等を訪問し、インドネシアの概況および経済状況について話を伺いました。
インドネシアは平均年齢が約28歳、総人口もこの先20年以内に3億5千万人に到達する見込みで、市場の成長が予測されています。また、2019年4月の大統領選挙でジョコウィ政権が二期目を迎え、政府も中小企業を盛り上げなければならないという意識が高まっています。インドネシア工業省が発表した「Making Indonesia 4.0」では、インドネシアが「2030年に世界の10大経済国になる」ための方策として、「中小零細企業の育成」「外国投資の誘致」などが盛り込まれています。
日系企業の進出も盛んで、ジャカルタ東部に集積する工業団地には多くの日本人が勤務していますが、ジャカルタと工業団地を結ぶ高速道路は渋滞がひどく、移動には非常に時間がかかります。一方、日本人学校はジャカルタ市内にしかなかったため、移動を苦にして、ジャカルタと工業団地で、家族と別れて生活する日本人駐在員もいるほどでした。2019年4月には工業団地の一つであるチカランに新しく日本人学校が開校したため、こうした状況が改善されることが期待されています。
2 インドネシア進出における課題
インドネシア進出における課題として、「どの業種を、どのようなルートで」進出させるかということが挙げられます。
どの業種を、ということについては、自動車、製造業に比べ、食品分野は進出がかなり厳しい状況です。インドネシアに商材が届いた段階で、既に日本の食品は賞味期限が短いものが多いことが理由の一つです。
どのようなルートで、ということについては、政府による汚職の多さという根深い問題があります。10年ほど前に汚職撲滅委員会ができてからかなり改善されてきましたが、それでもまだそれが障壁となる可能性はあるようです。また、会計・経理制度に関する法令はすぐに変わるため、中小企業単独での進出は非常に厳しく、インドネシア専門家の知識は必要不可欠です。
大使館でも、規制緩和に向けてインドネシア政府への働きかけを行っているそうですが、インドネシア側の法令・ルール運用面等で様々な規制や問題が存在しているので、常にアンテナを張って、最新の情報を得ることが大切です。
3 日系資本工業団地と現地資本工業団地
企業の進出状況について話を聞くため、日系資本と地場資本が50%ずつで共同開発しているカラワン工業団地(KIIC)と、現地資本が100%出資しているジャバベカ工業団地の計2か所を訪れました。
前者には日本企業が集中しているのに比べ、後者には地元企業や世界各国から進出している企業が多く、やはり運営主体の違いが顕著に表れているようでした。また日系の工業団地は進出する企業の生産性向上を第一に考えている一方、現地資本系の工業団地ではそこで働く従業員の生活の質向上にも力を入れており、病院、住宅街、大学、商業施設、スタジアムなども備えた、一つの大きな街となっていたのが印象的でした。
4 熱血指導、技能実習生送り出し機関
また、近年関心の高まる外国人労働者の現状を知るべく、ジョグジャカルタの技能実習生送り出し機関を訪問しました。技能実習生送り出し機関とは、日本側の受け入れ組合と契約を結び、研修生を日本に派遣する機関です。研修生の選抜や派遣前の日本語教育などを行います。インドネシアでは技能実習生送り出し機関として登録されている機関は100以上ありますが、日本行が達成できないまま授業料を徴収するなどの不正を働く機関もあり、実際に活動している機関は半分もないとのことでした。
訪問した機関では、日本で働く上で大切なのは語学力だけではなく、体力・精神力であるとして、ランニングや筋力トレーニングを授業に取り入れ、生徒たちを心身ともに鍛えていました。また、入学の段階で適正の有無を審査し、生徒を厳選して入学させているため、これまでほぼ100%の生徒を日本に送り出すことに成功しているとのことでした。
技能実習生は日本語の上達を一番の目的として日本に滞在するとのことでしたが、これは、日本語が上達すればジャカルタに帰国後も日本企業への就職や、再度日本で働ける可能性も出てくるからです。日本語を一生懸命に学ぶ生徒たちは、日本行きが決まる日を夢見て、希望に満ち溢れている様子でした。
今後の課題として、日本で2019年4月から始まった特定技能ビザが挙げられます。このビザの創設によりこれまでの就労ビザが受け入れてきた職業の業種が拡大するため、今後は技能実習を終えた研修生が特定技能ビザを取得して再度日本で働くことを希望する可能性があります。
しかし2019年7月10日時点では、インドネシア国内において、技能実習生が特定技能ビザを取得するための試験は行われていないとのことです。また、技能実習生送り出し機関が、実習生に特定技能ビザを取得させるための教育を行うには金銭的な面等の課題があります。一方で特定技能ビザを取得したいという依頼は、機関に対して多く寄せられているため、こちらの機関では今後の取組方針を検討していきたい、とのことでした。
5 ジョグジャカルタ特別州訪問
行程の最後にはジョグジャカルタ特別州を訪問し、農業や漁業など、様々な部局の担当者等と意見交換を行いました。その中で、ジョグジャカルタの特産品である「サラック」いう果物について、95%を未加工の状態で出荷するため、収穫期には値段が下がってしまうことや、州内漁業者は経営基盤がしっかりしていない中小事業者ばかりであることなど、ジョグジャカルタ特別州が抱える課題について説明を受けました。
これまでもクレアとジョグ・ジャカルタ特別州は専門家派遣などのクレア事業を通じ、自治体間交流を行ってきた実績がありますが、今後、ジョグジャカルタ特別州と日本の地方自治体との更なる連携に向けて、クレアとして何ができるのか、様々な可能性について模索していきたいと考えています。
6 日本の自治体へのアドバイス
今回、印象的だったのは、企業進出にあたって立ちはだかる規制等のハードルの高さがある一方で、手厚いサポート体制を提供している機関の存在です。
企業の海外展開を成功させるには、誰と組み、どうネットワークを広げていくかが非常に重要です。TokyoSMEサポートデスクのように強固な現地ネットワークを持つところでは、契約・マーケティング・ビジネスマッチングまで幅広く相談に応じています。
またインドネシア投資調整庁でもワンストップサービス窓口が設けられており、いくつかの省庁の役人から、省庁間の垣根を超えたアドバイスをもらうことができるため、こうした機関の情報を、適切に企業へ提供することが成功のカギを握るかもしれません。一方で、そういった機関に任せきりにせず、常に当事者意識を持って情報収集を行うことも事業者には求められています。
海外展開を狙う事業者のサポートを行う自治体へ向け、クレアは今後も有益な情報を発信していきたいと考えています。