2020年1月15日、シンガポール事務所では、徳島県立徳島商業高等学校(以下「徳島商業高校」という。)とカンボジア日本友好学園(以下「友好学園」という。)が共同で行った、両校の生徒による商品開発を通した学校運営への貢献及び地域における産業創出に関する取組について、友好学園を訪問し取材を行いました。
徳島商業高校は、徳島県の東側に位置する商業系の県立高校で、世界的な視野で物事を考えつつ、地域視点での行動を大切にするGlocal人材(造語:Global×local)の育成にも取り組んでいます。
カンボジア日本友好学園(以下「友好学園」という。)は、カンボジアの首都であるプノンペン都から東に約80km移動したプレイベン州リング村に位置するカンボジアの王立学校で、カンボジアで初めて日本語教育を実施した学校でもあります。
言語も異なり、直線距離にして約4,000kmも離れている両校が、どのようにして商品の共同開発に取り組み、成果を挙げたのか紹介します。
友好学園は、同学園の理事長であるKong Vorn氏が1993年に設立したNGO法人「CEAF(Cambodia Education Assistance Fund)」が、自らの募金活動や日本のNPO法人などの支援を受け、1999年に建設した学校です。
設立当初、中学1年生147名でスタートした同学園は、教員の給与水準が他業種と比べて低いカンボジアにおいて、教員への支援を充実させ、教育環境や教育の質を向上させることにより、現在では中高一貫校として約1,800名の学生が通っています。
また同校は、カンボジアで初めて日本語教育を取り入れた学校で、現在もカンボジアや日本の大学生がボランティアで講師を務め、日本語教育を実施しています。それもあって、友好学園に通う学生は、日本に対する興味や日系企業に就職することへの関心が高いそうです。
Kong Vorn氏を中心とした関係者の尽力により、高水準の教育を提供する学校となった友好学園ですが、生徒から学費を徴収せず、生徒の受入数を国が決定するカンボジアにおいて、生徒数の増加は財政状況の圧迫に繋がり、その改善が同学園の急務となりました。
また、これまで校舎の建設や学校運営などにおいて、日本からの寄付や支援が少なからず同学園の支えとなってきましたが、Kong Vorn氏は、今後そのような支援に極力頼らず、自立した学校運営を行っていくことの必要性を感じていました。
このような同学園の現状を知った徳島商業高校は、徳島県の協力を得ながら、両校の生徒によるカンボジアの原材料を活かした商品開発を行い、その商品の販売益を友好学園の運営資金に当てるというスキームを提案し、2013年にJICA草の根技術協力事業の採択を受けました。
徳島商業高校側で商品の共同開発に取り組んだのは、2013年6月に同校のビジネス研究部内に設立された模擬会社「ComCom(Commercial & Communication)」に所属する生徒達です。友好学園側は、あまり大人数になると作業効率が低下してしまうため、各学年から約6名を選抜し18名体制で取り組みました(開始年度は14名)。
商品開発を行うにあたってのアイデア出しなどの会議は、主にテレビ会議で行われました。日本とカンボジアの時差は2時間ですので、それによる制約はあまりなかったようです。ただ、同学園にはもともとインターネット環境やビデオ会議を行う設備等がありませんでしたので、それらの環境構築や商品開発を行うための実習室改築などの際には、現地を訪問し調整を行う必要がありました。ビデオ会議等を行う際の会話は、同学園で日本語教育を受けた卒業生が通訳を務めてくれたことにより、円滑に行うことができたとのことです。
アイデア出しの際、友好学園側から初めに提案されたのは「ジャックフルーツ」を原材料とした「ちまき(ノムコーム)」の開発でした。ちまき(ノムコーム)は、結婚式や正月などに欠かせないカンボジアの伝統的なお菓子で、ジャックフルーツは東南アジアで親しまれている南国のフルーツです。
この提案を受け、徳島商業高校の生徒が実際にジャックフルーツの缶詰を輸入して試食してみたところ、日本人の舌には馴染みにくい味というのが正直な感想でした。また、ジャックフルーツは日本で手軽に入手できるものではないこともあったので、そのことを友好学園側に伝え、代替案に関する会議を継続して行った結果、最終的には両国で容易に入手できるバナナを原材料とした蒸しパン状のお菓子「ふれんじゅう(フレンド+まんじゅう)」を制作することに決定しました。
今回の取組で開発した商品は、カンボジア人への販売のみならず、日本人への土産物としての販売も見据えていたため、商品は両国の需要にあったものにする必要がありました。そのため、どうしても両国の食文化や事情に100%マッチした商品を開発することは難しく、生徒同士の会議でもなかなか折り合いがつかない場面もあったそうですが、粘り強い意見交換と両校の生徒がお互いの国を訪れて、市場や食文化に関する調査を行うことにより、徐々に意見がまとまってきたそうです。
これ以降も、カボチャと生姜を使ったふれんじゅうやカンボジア産の椰子砂糖を使ったアイスクリームなど、様々な苦労を経ながらも順調に商品開発を行い、両国で行ったテストマーケティングにおいても高評価を得るなど、商品のレシピ開発は成功を収めることができました。
冒頭でも述べたとおり、今回の取組の最終目標は、共同開発した商品を販売することにより、学校運営に貢献し更には地域における産業を創出することです。
これを実現するために、現在大きく2つのことが課題となっています。
1つは、商品の安定生産に関する課題です。多くの商品を安定して生産するために、JICA草の根技術協力事業を活用し、友好学園の隣接地に研究施設を建設しました。これについては、今後円滑に施設を運営するために現地における人材育成を継続して行う必要があります。
もう1つの課題は、製造した商品の販売についてです。王立学校、すなわち公立である友好学園は、直接的な営利活動が困難であるため、施設の運営方法を法制度や経営利益等の様々な面から検討する必要があります。生徒への職業訓練としての商品開発を継続しつつ、営利活動については例えば外部委託や販売主体となる法人の設立のような形式が想定されますが、利益が確保できるようになるには、更なる調査が必要です。
また、今回の取組に関わる直接的な課題ではありませんが、両校の交流が実現し、現在も継続されているのは、徳島商業高校の鈴鹿教諭と友好学園のKong Vorn氏によるところが大きく、今後は両者の後継者となるべき人材の育成も必要であると考えます。
まだ課題の残る今回の取組ですが、目標達成の目前まで来ています。また、今回の取組で注目すべき点は、2015年12月の両校による友好協定締結や、東京オリンピック・パラリンピックのカンボジア選手団のホストタウンに徳島県が任命されるなど、取組をきっかけとして両国における交流も促進されており、加えて、これらの取組に生徒達が主体となって取り組むことによって、「Glocal」な人材の育成も同時に実現されている点です。
国際協力を通して、交流の輪を広げ、人材育成にも繋げた今回の取組は、同様の取組を行う自治体にとってモデルとなり得る事例であると考えます。
シンガポール事務所では、今後も両校の取組を含め、日本の自治体の参考になるような事例を収集しつつ、共有してまいります。