山口県議会ではASEAN地域友好・経済交流促進議員連盟を結成し、各種活動を行っています。
今回は日本と同じ少子化、高齢化の課題を持つシンガポールと解決策を共有するため、2019年9月4日から7日まで首相府、在シンガポール日本国大使館、保健省、経済開発庁を議員連盟一行が訪問されたことから、同行支援を行いました。
■ アプリを活用した子育て支援
最初に首相府の戦略グループ国家人口・人材部門を訪問しました。
担当者からはまず「2018年の合計特殊出生率は、シンガポールが1.14と日本の1.42よりも低く、2005年に合計特殊出生率が底をついた日本の対策を参考にしている。ワークライフバランスについても、今年日本を視察した」と課題先進国である日本に注目しているという話がありました。
シンガポールの現状に関しては「アンケート調査では未婚者の86%が結婚したいと回答したが、未婚率は依然として高い。また、91%が子どもを二人持ちたいと回答したが、1世帯あたりの子どもの数は1.21と低い。未婚率が高い理由は1.結婚の優先度が下がった、2.昔より労働時間が長くなった、3.成人しても両親と同居するシンガポールの住宅事情がある」と分析していました。
政府の子育て支援政策としては、子育て支援アプリ“Moments of Life”を使って、出生届の提出、幼稚園の入園手続、子育て支援補助金の申請等の子育て関連手続をワンストップでできるようにしていました。
山口県の取組として、4年前に設立した山口県結婚応縁センターで93組が成婚した政策を紹介したところ、シンガポールでは15年前にマッチング施策を実施したが、若者は政府の関与を望まないため、現在はイベント開催に変更したとのことで、日本とシンガポールにおける有効な施策の違いを実感しました。
■三段階のレベルで行う高齢化施策
在シンガポール日本国大使館への表敬訪問後に訪れた保健省では、2030年に人口560万人中90万人(16%)が65歳以上となるシンガポールの高齢化の現状を共有。以前は高齢化を問題として捉えていたが、健康寿命も延びていることから、今では肯定的に捉えているそうです。
高齢化に関する施策を決定するに当たり、保健省では4,000人からヒアリングを行い、高齢になった際に何が必要か、何をしたいかをまとめ、その結果を個人レベル、コミュニティレベル、国レベルの三段階に分けて実施しています。
まず個人レベルでは、タクシードライバーが月に一回、車両点検をする際に自分の血圧検査も行う等、検査を受けやすい環境を整えています。
次にコミュニティレベルでは、Kampong Spirit(マレー語と英語を組み合わせた造語で“村の精神”)をスローガンに、認知症患者をサポートするコミュニティを形成したり、元気なシニア世代が月に2回、病気の高齢者を訪問したりする制度を整えています。
最後に国レベルでは、高齢になっても容易に移動できる公共交通やスーパーで働く高齢者を助けるロボットの開発等を行っています。
■海外からの投資を呼び込む施策
最後に訪問した経済開発庁はシンガポールのGDPの30%に関与する政府機関です。駐在員が過ごしやすい環境ということもあり、海外企業のアセアン本社の46%がシンガポールに集中しており、グローバルサプライチェーンの中心という地の利も活かした政策を実施しています。
調査・研究への助成や税の軽減を通じて海外からの投資を呼び込み、シンガポールで新しいサービスを作り上げていくことを目標に、まだシンガポールに投資したことがない会社に対するセミナーや、今後シンガポールへの投資を拡大したい会社へのネットワーキングづくり等のサポートを積極的に行っています。
~支援後の所感~
シンガポール政府がリリースしている子育て支援アプリ“Moments of Life”は、いかに受益者が容易にサービスを受け取ることができるかという観点から提供されていますが、役所で対面の対応をする必要がなく、また紙の書類を処理する必要が無くなるため、行政の効率化にも寄与するという印象を受けました。
(今井所長補佐 北海道池田町派遣)