2019年8月29日(木)・30日(金)にベトナム南部にあるホーチミン市において、日本国総務省とベトナム社会主義共和国内務省共催の「日本-ベトナム地方行政セミナー」が行われました。クレアシンガポール事務所はASEAN地域を所管する現地事務所として総務省のサポートを行ったほか、近年注目を集めるベトナムの人材研修・送り出し機関を取材しましたのでその様子をご報告します。
1 日本‐ベトナム地方行政セミナー
日本-ベトナム地方行政セミナーは日本・ベトナム両国の中央政府及び地方自治体関係者約90人が集まり、レ・ビン・タン内務大臣ご臨席の下開催されました。ベトナムで同セミナーが行われるのは3年連続であり、昨年度も、フエ市において同様のセミナーが開催されました。
今年のセミナーでは
①自治体レベルごとの権限、職務内容
②職員採用や人材活用、育成の優良事例
について、取組事例の発表や意見交換を行いました。
初めに日本国総務省とベトナム内務省からそれぞれ基調講演が行われました。総務省自治大学校長は「日本の地方行政の概要」をテーマに、日本の地方自治制度や地方財政制度について、ベトナム内務省地方自治局長は「ベトナムの地方自治制度」をテーマに説明を行いました。
その後、2日間にわたって、日本側2名、ベトナム側4名のスピーカーによるテーマに関する事例発表が行われました。
日本側は、「選ばれるまち川口」と題した埼玉県川口市における中核市移行の際の主な変更点や人材育成における取組、熊本県の「新たな熊本の創造に向けた熊本県庁の人材確保と育成」と題した職員採用や育成の取組の2つの事例を取り上げ、発表しました。
一方、ベトナム側は、内務省公務員局次長、内務省組織編成局次長、ホーチミン市内務局次長、元内務省副大臣がベトナムにおける幹部も含めた公務員の採用や研修制度、定数削減、人材育成の取組等について、それぞれの見地から発表を行いました。
いずれの事例発表でも、参加者は熱心に聞き入っており、発表後は時間の限りまで、スピーカーへ質問が投げかけられていました。総務省の事例発表に対しては、自治体合併について質問がされ、財政面の優遇措置等のメリットに触れながら説明がなされました。また、川口市、熊本県の事例発表に対しては、「採用面接での留意点」や「学生インターンシップの活用」「人事評価が悪かった職員への対応」等について具体的な質問が上がりました。
経済成長著しいベトナムにおいても公務員の人材確保、育成は喫緊の課題であり、職員の育成や運営における日本の経験、ベストプラクティスを学びたいという強い意欲と、行政改革に本気で取り組んでいくという強い意志を感じました。
2 優秀なベトナム人材を日本へ! ~ESUHAI訪問~
現在、日本では少子高齢化・労働力不足が深刻化する中で、各自治体においても、外国人材確保に向けた動きが加速しています。中でも日本で働くベトナム人労働者(2018年10月末時点)は30万人を超え、国籍別では中国に次いで2番目となっており、注目を集めています。
ベトナム人材の教育・送り出しを行っている「ESUHAI」を訪問し、同社の取組やベトナム人材の日本への送り出しの現状等をお伺いしました。
同社は、技能実習生を中心に、毎年約2,000人を日本に送り出しています。
ベトナム国内に人材送り出し機関は約300もあることから、送り出し機関の中でも激しい競争が起こっているようです。同社では、日本への送り出しに特化しており、また、ただ人材を送り出すだけでなく、日本での生活に適応し、実習生として貢献できるように、出国前にベトナム人を十分に教育した上で優秀な人材を送り出すことで、他機関との差別化を図っているとのことでした。
生徒は同社が運営する教育施設で1年間、日本語教育に加えて、ビジネスマナー・ビジネスマインド・キャリア意識教育を受けた上で、日本に送り出されます。日本とベトナムでは、働き方に関する考え方や礼儀作法が異なることから、日本における社会人意識を教育し、日本でしっかり適応できるようにすることが重要とのことでした。同社はその教育を行う日本人教員も配置しており、充実した教育環境が整えられています。
また、送り出したら終わりではなく、日本からの帰国生のサポートもしっかりと行われていました。帰国後の継続教育のプログラムが整備されており、帰国生のネットワークを活用して、ベトナムでの再就職の支援が行われています。帰国生の半数は現地の日系企業に就職し、日本での経験をその後のキャリアで活かしているようです。
日本では少子高齢化を伴う人口減少による人材不足を背景として、特定技能制度が今年度から始まっており、日本の労働市場においては、今まで以上にベトナムをはじめとする外国人材が人材不足の解消に寄与することが見込まれています。そのような中、送り出し前に十分な教育を行い、優秀な人材を輩出する同社のような機関が果たす役割はますます大きくなっていくと感じました。
クレアシンガポール事務所では、所管国の地方自治制度について調査を行っております。引き続き、ベトナムの地方行政や日本からベトナムへのニーズ等について動向を注視し、調査を進めてまいります。