クレアシンガポール事務所では、より自治体にとって有意義な現地情を発信するため、マレーシアを拠点に活動している広告代理店とコラボし、自治体のインバウンド事例についてご紹介しています。今月号のテーマは、「旅行商品の造成について」です。
Vector Marketing PR Malaysia 金子 美穂
旅行博シーズン到来です。
大型の旅行博の前後には多くの自治体が旅行代理店にセールスコールへ行くことと思いますが、多くの場合、その目的は「ツアー造成」です。しかし、“現在の市場とターゲットは「造成されたツアー」を買う層なのかどうか”、見直すタイミングが来ているようです。
例えばベトナムの場合、日本に旅行する際にはビザの取得が必要で、観光の場合は「15日滞在のビザ」を取得することがほとんどです。この「15日滞在ビザ」は、取得は簡単ですが団体商品を主に取り扱う旅行会社商品の利用が必須であるため、ツアーを造成するメリットはあるでしょう。
(「指定旅行会社」が主催するパッケージツアーに参加する場合,金融機関の預金残高証明書など,一部書類の提出が免除されるほか,参加者が自ら大使館に出向いてビザを申請する必要がなくなります。(在ベトナム日本国大使館HPより))
実際、ベトナム人の観光目的の訪日客では4割が団体ツアーを利用(ハノイ、ダナン、ホーチミンでの調査では7割が団体ツアー)しています。
しかしシンガポール人は訪日に際しビザが不要、タイ人やマレーシア人も2013年よりビザ取得が免除となり、インドネシアは取得こそ必要ですが旅行代理店を通す必要はありません。
その結果、ほとんどの東南アジアの国において、FIT(Foreign Independent Tour)が全体の訪日客の70~90%の割合を占めるようになったのです。
■旅行代理店が売る旅行商品にはどんなものがあるか
① 15~20人を最小催行人数とする、(いわゆる普通の)旅行パッケージ商品
② フライトやホテル以外の「現地発着ツアー」などのタビナカ商品
③ JR Passなどの鉄道商品やテーマパーク入場チケット付きの商品など
④ 6~10名程度の中規模グループでのセミオーダー商品
⑤ 教育旅行やインセンティブ(300人規模など)旅行などの、個人では手配が難しいもの
このうち、多くの自治体が造成を望むものは①ですが、現在は①の需要が各国で低下している状況です。
初めて会う人たちと決まったルートを一緒に行動する(人によっては)煩わしさだけでなく、最小催行人数に満たない場合は旅行そのものがキャンセルされてしまうリスクも抱えた商品のため、旅行代理店によっては、「売れる商品でないと作れない」ところも多数あります。
もしくは、自治体のプロジェクトの一環として造成したものの、旅行代理店のウェブサイトには掲載しないということもあります。
一方、FIT層を中心に需要が高まってきているのが、②や③の商品です。
特に旅慣れた20~30代を中心に格安のアクティビティやチケットが人気で、KLOOK(https://www.klook.com/ja/)やKKDAY(https://www.kkday.com/ja)などから多くの商品が売れています。
これらのサイトの特徴は、どれだけ多くの旅行者がどの商品を買って、どう評価しているかが数値で明確に見えるところです。自然と人気商品には高評価がつくので、「失敗しない」「行ったら確実に楽しめるであろう」商品が一目瞭然となるわけです。
例えば、KKDAY販売の日本の人気商品の一つに、「【新宿出発】富士山周辺の人気スポットをめぐる1日バスツアー」(https://www.kkday.com/ja/product/10999)があります。
所要時間、ガイドの言語(日・中・英)、いつまでキャンセル料が無料か、費用の内訳などが記載されています。
レビューには、
「ツアーガイドが本当に面白く親切で、各観光地に関する説明が分かりやすかった」
「子供連れでも、添乗員が親切に対応してくれ、時間もきっちり気にしてくれたので遅れることなく楽しめた」
「ツアーガイドの説明がプロフェッショナルで、3か国語を話すため、どんなグループにも対応できた」
などがあり、初めて行く不安な土地や、説明が必要な観光地でのガイド機能が求められているようです。
たしかに日本の観光地は、英語の案内がとても少ない点が指摘されていますね。
これらの現地発着ツアーなどを個人で自由に組み合わせ、前日までさまざまなレビューを見て旅の内容を決めていくのが人気です。
KLOOKやKKDAYへの掲載は、各国の商品担当と交渉をして、テーマパークのチケットの販売代理契約を結んだり、売れる商品をともに作り、商品として扱っていただく必要があります。
④は近年シンガポールやマレーシアの中華系富裕層を中心に増えている実感がある、「ミシュラン3ツ星レストランだけをまわるツアーを組んでほしい」、「〇〇列車を貸し切ったツアーを組みたい」、「予算1人100万円、10名で四国へ行くのでオススメのコースを組んでほしい」というようなセミオーダーです。
顧客は信頼している旅行代理店にセミオーダーするため、こういう富裕層を狙う自治体は、旅行代理店の担当者にまずは県の情報をインプットしておかなければなりません。
⑤の教育旅行、インセンティブ旅行も近年は人気で、最近、とある旅行代理店より600~700名規模のインセンティブ旅行の宿泊場所を探す依頼を受け、レップをしているとある県を紹介いたしました。
もちろん条件は収容可能な宿泊施設があることですが、その県に、例えば100名宿泊させると大型バスが2台無料になる特典がつくなど、旅行代理店にもメリットがあることも重要です。
この県は助成の一環でさまざまな特典を持っていましたが、旅行代理店はそのことを知りませんでした。そこで私たちから積極的に代理店に伝えたところ、じゃあ〇〇県をやめてこの県にする、という検討を始めてくれたのです。
しかしながら、この規模のインセンティブツアーは非常に稀でタイミングも重要のため、誘致して簡単に実現するものでもありません。また、日本のインセンティブツアーは高くつく、という話も聞きます。
ローカルの旅行代理店に顔がきき、常に密なコミュニケーションができて初めて、「こういう旅行を考えているのだけど、日本でいい場所ある?」と問合せをいただくのが現状です。
■どの国のどんな層にどんな県の魅力を伝えたいのかを考える
FITが90%以上を占めるシンガポール人に向けて①の造成はおそらくあまり効果的ではなく、②や④のフェーズでしょう。反対に、ベトナム人は①が限りなく必須となります。マレーシア人に向けては、中華系は②や③、④かもしれませんが、ムスリムに向けては、ハラル食がカバーされた①を作るべきフェーズの自治体もあるはずです。
また、自治体や宿泊施設の受け入れ状況によっては、⑤を積極的に誘致できるところもあるでしょう。
都市の近隣県はツアーよりもFIT向け(ツアーを作ると逆に高くついてしまう)、逆に都市や空港のある県から離れれば離れるほど、ツアーや団体、セミオーダー向けの商品が活きてきます。
さきほど紹介した、600~700名規模のインセンティブツアーの宿泊場所に選んだ県は、関東近郊の県です。これまではツアー商品も作っておりましたが、都市圏がツアーに入ることでどうしても値段が高くなってしまうこと、都市圏であれば個人で行けるためツアーに魅力がないことを理由に、個人では探せない、少し離れた土地へのツアー造成を提案いたしました。
また、大規模なホテルがたくさんあることから、より多くのインセンティブを呼び込もうと、旅行代理店のインセンティブ担当に向けたセミナーもマレーシアで開催しました。
旅行会社が予定していたインセンティブツアーにさっそく当該県の施設を検討していただくなど、双方にとって有意義なものになりました。
旅行代理店の反応が大きかったものは、観光地情報よりも、「大規模なホテル」や「食事の受け入れ先」、そして「特典」です。
特にムスリムマーケットでは、大人数の入るムスリムフレンドリーなレストランを探すのを大変苦労しており、提供した情報はひときわ歓声のあがるものがありました。
現在の自治体の「売り」を見極め、どの国に向けてどのようなターゲット設定をするかにより、作るべき商品やアプローチすべき相手、方法が変わってきます。
まずはどんな商品が適しているのかを、一度振り返ってみてください。
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クレア担当者の所感
・現地旅行会社への営業活動の同行支援や各自治体の情報等から、ツアー造成から教育旅行・大規模インセンティブ旅行誘致へと、ウェイトが移ってきているように感じます。また、補助制度を現地旅行会社に知ってもらうことも大事ですが、その制度を現地旅行会社にとって魅力的なものにするには、どういった設計にするか、工夫の余地がありそうです。
・現地発着ツアーなどのタビナカ商品について、各自治体でも商品化に取り組んでいるようです。一方で、外国人観光客が少ない地域では、外国人観光客のみをターゲットとした商品はビジネスとして成立しない、造成段階では販売方法まで検討されておらず、サイト販売等による手数料が捻出できないといったケースもあるようで、現地発着ツアー等の商品化の難しさを感じました。
クレアシンガポール事務所
所長補佐 佐藤 文昭(島根県松江市より派遣)
記事配信元
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代表取締役 西江肇司
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資本金:
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