今回の専門家派遣事業の舞台はチョンブリ県セーンスック市です!
チョンブリ県はバンコク都から車で約1時間半。隣接するラヨーン県とともに自動車工業を中心とした工場集積地です。また、タイ最大のレムチャバン港を有し、商業・サービス業も盛んです。チョンブリー・ラヨーン地域に進出する日系企業も多く、非常にたくさんの日本人駐在員や家族が住んでいます。
リゾート地として有名なパタヤも同県にあります。
そのチョンブリ県にあるセーンスック市は、バンコクの中心地から約74km。面積:20 km²、人口:約4万5千人の中規模自治体です。セーンスック市にあるバンコクから近いバーンセーンビーチは毎週末、多くのタイ人が訪れる人気スポットです。近年、タイ人に加え、海外からも人気が高まっており、年間約150万人の観光客が訪れています。
現在、タイ国内における人口構造は著しいスピードで変化しています。日本と同様に出生率が低く、少子化が進んでいます。また、医療技術の高まりにより死亡率が減少し、タイ国内は既に、高齢化社会を迎えています。2015年、セーンスック市内の高齢者人口は6,240人であり、総人口の約13.8%を占めています。セーンスック市では、高齢者向けの介護施設が限られており、大学病院が認知症等のリハビリサービスを行っている程度です。長期介護が必要な高齢者の殆どは、家族や親戚など、介護非熟練者からの在宅介護を受けています。技術や知識が不十分な中での介護です。タイの中央政府や地方自治体は介護技術とサービスの推進を重要な政策としており、地域ボランティアを募り地域密着型の介護サービスに力を入れています。
こうした中で、既に高齢化が進んでいる日本から、介護技術や知識を学びたいとセーンスック市から要望があり、東京都大田区役所福祉部糀谷羽田地域福祉課 高齢者地域支援担当 保健師・小池那奈氏が今回、専門家として派遣されました。
今回の専門家派遣は8日間のプログラムとして行われました。
①開会式に加えてセーンスック市長の挨拶及びクレア本部舩山常務理事の挨拶
②保健衛生部のスタッフ・市民介護ボランティア・病院関係者を集めた専門家による講義
③家庭訪問調査・現場指導及びその後の技術・知識指導
④今後に向けた専門家からの提案や看護師や市民とのディスカッション、模擬指導等、
現場を重要視した中身の濃い充実した内容でした。
セーンスック市が専門家に望んでいたことは・・・
(1)日本のデイケアプログラムの紹介
(2)市民介護ボランティアへの日本からの技術指導です。
セーンスック市には十分な介護施設がまだありません。今後、国の補助金を活用し、介護施設を作る予定です。そのため、デイケアプログラムの策定が課題です。
また、施設がないため、現状、高齢者を介護しているのは家族や親戚であり、在宅介護が基本です。そういった家族や親戚、高齢者自身をサポートするために、市民介護ボランティア制度があります。ボランティアと言っても実際は月に600バーツを保健省からもらっていますが、活動時間を考えると、十分な金額ではありません。お金のためではなく、地域のサポートをしたいと思っている温かい人々の集まりです。自主的に登録し、楽しみながら地域を支えている方がタイにはたくさんいます。常時サポートとして活動可能なボランティアは約100名程度ですが、高齢者約6,000人に対して、登録上は600名のボランティアがいます。市民がボランティアで介護サポートをしているため、誤った知識や未熟な技術で介護をしてしまうことがあります。人の愛、温かさはあるが、技術や知識が不足している。そういった市民介護ボランティアに日本の技術や正しい介護指導を行うことが今回の専門家派遣事業のミッションでした。ベッドでの体位変換、車いすへの乗せ方・降ろし方、足浴、口腔ケアの指導やリハビリの方法など、基礎的事項の指導が、市民介護ボランティアより非常に喜ばれました。
今回の専門家派遣事業においても、多くの方の協力を得る事ができました。(1)大田区からは現場の指導や実践に役立つ数多くの介護用レクリエーショングッズ。(2)事業の趣旨に賛同したサラヤ株式会社のタイ工場より石鹸、口腔ケアブラシの無償提供。同社は昨年度の食品衛生分野(タイ・シーサケート市)での協力に引き続き2度目の事業協力です。(3)CLAIRより手洗いチェッカーセット及びオーラルケア用品を提供。全て本事業に欠かせることが出来ないもので、セーンスック市より大変感謝されました。衛生分野における基本はやはり手洗いです。現在でもタイでは手洗いが不十分な地域が多く、衛生分野において、基本の手洗い指導が非常に重要です。
セーンスック市は現在、長野県佐久市と佐久総合病院、Burapha大学(セーンスック市)と共同してJICAの草の根事業を利用し、3年間の介護制度構築プログラム実施中です。そういった中でのクレアの専門家派遣事業の活用でした。クレアの専門家派遣事業のメリットは、短期間で全体スキーム及び日本の事例を学び、その後の自治体交流のきっかけとすることが出来る点です。長期的な視点と短期的レビューを得たいセーンスック市にとって今回は非常にタイミングがよいものでした。同市長も、本事業を機にクレアや大田区との連携を強めたいと非常に積極的です。
専門家派遣事業が少しでも海外自治体のニーズを満たし、日本の自治体が国際社会に貢献できるきっかけになることを期待しています!