2019年10月6日~11日において、マレーシア・セラヤン市で専門家派遣事業を実施しました。この事業は、クレアと日本の地方自治体が連携し、国際協力に関する技術やノウハウを有する自治体職員(OB含む)を、海外の地方自治体の要請を受けて、専門家として派遣する国際協力活動です。この度、セラヤン市の要請により、大阪府OBで廃棄物管理の専門家(田中秀穂氏:地方独立行政法人 大阪産業技術研究所 経営企画部主査)を派遣しましたので、事業の内容を報告いたします。
セラヤン市は、首都クアラルンプール市からも程近いセランゴール州の中心市です。人口約60万人の内、民族構成は約52%がマレー系、約27%が中華系、約15%がインド系となっています。産業は製造業が主で、自動車部品などの工場が多く集積している町です。
また、マレーシア随一のヒンドゥー教の聖地として知られるバトゥ洞窟を有し、同市の主要な観光地として、訪れる人々を魅了しています。
セラヤン市では、指定ごみの回収が日々行われているものの、指定場所以外でのプラスチック製品などの不法投棄が後を絶たず、住民や事業者へのごみの分別や管理、リサイクルの普及啓発が喫緊の課題になっています。また、ミャンマーやバングラデシュからの外国人労働者も多く、地域住民への意識啓発の難しさにも直面しています。
専門家との現場視察を通して、不当投棄者には罰則規定があるものの、実際は警告に留まっていること、また、違法営業の飲食店も多く、未許可の店舗はグリーストラップ(排水中の油分を分離・貯留して排水管・下水管に流さないようにする装置)が設置されておらず、さらに環境悪化を招いていることも浮き彫りになりました。
このような現地での視察を踏まえ、専門家からは、産業ごみの有料化や飲食店へグリーストラップの設置を義務付けること、地区単位で「ごみ処理の管理者」を市が任命し、警察と連携して住民を巻き込んでいくことなど、助言がありました。
加えて、視察中は、現地の有力紙であるChina Pressの取材が入り、地域住民に広く周知することができたのも、より一層、事業の効果を高めることに繋がりました。
講義では、日本の廃棄物減量化やリサイクルに関連する法律、大阪府の住民アンケートの手法など、具体的な事例が紹介されました。講義に参加したセラヤン市職員からは、徳島県上勝町のごみゼロの取組について質問が出るなど、日本の廃棄物処理の優良事例がマレーシアでも広く知られていることに感銘を受けました。
グループワークでは、参加者が市のアクションプランを作成し、市の未来設計を考える中で、ある職員からは「担当部署だけでなく、市の職員が一丸となって、ごみ問題に向き合わなければならない。」と熱く訴え、参加者一同に共感の輪が広がりました。
ごみ処理をはじめとする廃棄物管理やマイクロプラスチックの問題は、SDGsの世界的な動きもあり、地球規模で向き合う課題です。短い期間ではありましたが、専門家派遣事業を通じて、自治体の草の根レベルだからこそ出来る、Face to faceの国際協力、国際貢献の意義を強く実感しました。
この国際協力活動が活かされ、セラヤン市が廃棄物管理の分野で、マレーシア及びASEAN諸国のトップランナーとなっていくことを期待します。