クレアシンガポール事務所では、地域の国際化に貢献できる人材を育成すべく、職員の資質向上のための様々な研修を実施しています。
人口減少による国内市場縮小を背景に各自治体が海外に目を向け、中小企業の海外販路開拓を中心に支援を行っている中、海外販路開拓の実務に関する知識・スキルも海外勤務経験のある職員に求められる資質の一つであると認識のもと、2019年7月5日及び10月4日に「海外販路開拓支援に必要な基礎知識の習得」をテーマに、シンガポールを始めとするASEAN各国で活躍するコンサルタントを講師に招き、研修を開催しました。
その内容の一部を紹介します。
１ 研修概要
（１） 研修の目的
「海外進出検討中の企業に「的確なアドバイス」を与えられるようになること」＝「海外進出を検討する事業者に具体的なアクションプランを提示できること」を研修の目的に設定しました。
（２） 講師
地方自治体との連携実績とシンガポールを中心とした各国での海外販路開拓実績の観点から、シンガポールを拠点に事業展開するビンテージアジア経営者クラブ株式会社の安田代表取締役社長に講師を依頼しました。
ビンテージアジア経営者クラブ株式会社
代表取締役社長 安田 哲 氏
【事業概要】中小企業の海外販路開拓／自治体の海外進出伴走型サポート／アジア富裕層向けマーケティング
２ 第一回研修
日本国内での現状分析から輸出後のアフターフォローまでの各プロセスについての解説とともに、実務上留意すべき点について講師からコメントがありました。参加した職員からは、「企業に行うべき助言について体系的な知識が習得できた」「これまで海外販路開拓に関連する業務は未経験だったが、販路開拓のプロセスの概要を把握することができた」といった感想が寄せられました。
【主な講師コメント】
・自社製品と他社製品の国内での差別化ができていない事業者も多い。海外販路開拓のために国内での差別化に取り組むと、国内での売上げ増加の効果が先に現れることも多い。
・価格、性能、ストーリーは商品企画の問題であり、事業者でなければ作ることはできない。事業者に「国内における差別化」の質問を投げかけるだけで海外進出における失敗の確率を減らすことができる。
・現地の許認可が厄介である。最も信頼できるのは実際に商材を輸出入している商社からの情報である。
・「知的財産の保護をしているか」という質問は是非事業者に投げかけて欲しい。
・少量では扱ってくれない日系の販売店と、少量でも扱ってくれるが独占販売権を求めてくるローカルの販売店があるので注意されたい。納得のいく年間の買取り数量を前金で明示してくる販売店なら独占販売権を認めてよいが、この条件を飲む販売店はほとんどいない。
・多くの日本の事業者はFOB価格*は把握しているが、CIF*価格は把握していない。CIF価格を算出したことがない事業者は算定を嫌がるが、CIF価格は海外販路開拓に必須である。
・日本のほとんどの商品はすでにシンガポールに入ってきており、シンガポールのディストリビューター、消費者にとって目新しい物ではない。彼らを振り向かせるには目新しいストーリーが必要である。
3 第二回研修
派遣元の地域産品をどのようにシンガポールで売り込んでいくかを自ら考える事前課題を各職員に課し、その内容を研修当日に講師が添削・コメントする方式で研修を実施しました。
講師からは「健康への訴求は今のシンガポールでは有効である」「日本でNo.1の商品なら海外でも訴求力がある」と言った各商品に共通する助言のほか、例えば精肉であれば「細胞を壊さない冷凍方法が開発されており、消費期限を2ヶ月にできれば販路は拡大できる。」「高級ホテルのバイヤー、シェフ向けの展示試食会は現地の方はあまり行かない。現地レストラン等でのメニュー化を狙うなら現地のキーマンとネットワークを構築し、そこからシェフやオーナーへと人脈を広げると良い。ネットワーク構築の場としては、例えばシェフが集まるバーなどがある。」といった商品の特徴に合わせた多角的なアドバイスがありました。
研修に参加した職員からは派遣元で海外販路開拓の担当者となった場合に役立つ研修であったという声のみならず、事業者の視点から物事を考える訓練になったとの声もありました。
4 終わりに
実際の研修では、上記以外にも講師の成功事例や苦労した話など、実務の現場を知っている方ならではのタイムリーな話を数多く聞くことができました。そのような生の情報を多く入手できることは海外に職員を配置する意義の一つといえます。
クレアシンガポール事務所では、派遣元に帰任した後も見据えた職員の資質向上に取り組んでいくとともに、事業者を含めた現地の声をお届けできるよう努めてまいります。
* FOB（Free on Board）価格：輸出港で買い手（輸入者）指定の本船に積み込むまでの一切の費用（輸出港までの輸送費、集荷費、輸出国側での通関費用等）を含んだ価格。本船甲板渡し価格。
* CIF（Cost, Insurance and Freight）価格：FOB価格に海上運賃と海上保険料を加算した額。