クレアシンガポール事務所では、地域の国際化に貢献できる人材を育成すべく、職員の資質向上のための様々な研修を実施しています。
2019年の訪日外客数は過去最多の3,188万人 を記録しました。新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大により、2020年の訪日外客数は大幅に減少していますが、新型コロナ後の旅行需要の回復を見据え、今後も海外市場を対象とした自治体の観光PRが行われることが想定されるなか、訪日インバウンドの現状や効果的なプロモーションに関する知識・スキルは海外勤務経験の職員に求められる資質の一つです。
このような認識のもと、2020年8月~12月にかけて計4回にわたり、「アジアにおける訪日事情・現状/日本側から見た有効なプロモーション」というテーマで、アジアパシフィックエリアに多くの拠点を有する旅行会社より講師を招き研修を開催しましたので、その講義の一部をご紹介します。
なお、今回は新型コロナ感染拡大防止のためのシンガポール政府の規制により、職員が実際に集まることができず、全てオンラインで実施しました。
(1)目的
講義及び演習を通じ、東南アジアからの訪日インバウンドの現状を把握するとともに、効果的なPRについて学ぶことで、自治体の誘客活動をサポートするための知識を身に着ける。
(2)講師
JTBアジアパシフィック本社GBS事業部BTM &レジャー事業担当部長
鷲塚 智紀 氏
※JTBアジアパシフィック(本社所在地:シンガポール)は、アジアパシフィックエリアの14の国と地域、44都市に拠点を有し、幅広いネットワークから得られる最新の情報に加え、レジャー事業、イベント&プロモーション事業、スポーツ事業など、様々な事業領域において訪日旅行促進活動を展開されています。(2020年12月現在)
(1)第1回研修(2020年8月上旬実施)
訪日インバウンドの現状として、2019年の東南アジア諸国からの訪日の状況と、なかでも訪日客の多い5か国(シンガポール、タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシア)それぞれの観光にまつわる特徴的な性格や購買行動について説明いただきました。
【講師コメントより】
〇2019年の訪日外客数トップ20のうち、アジアからは11の国・地域がランクイン
〇訪日客の多い東南アジア5か国においては、性格は親日家で楽観的な方が多く、購買時には徹底的に価格比較を行いディスカウントに目がないことに加え、グルメやインスタ映えを意識した旅行を好む一方で、歩くのはあまり好きではない傾向がある。
(2)第2回研修(2020年9月上旬実施)
各国のJTB支店より、シンガポール支店の店頭販売担当者、タイ・バンコク支店の商品企画担当者をパネリストにお迎えし、各国旅行者のリアルな思考、日本との違いなどについて、現場目線の率直なお話を伺いました。
【講師・パネリストコメントより】
〇日本の地理を理解している人ばかりではなく、1週間で全国を周遊可能と考えている人もいるくらいなので、フォローが必要。(シンガポール)
〇日本食はタイでも人気で、それなりに舌が肥えている。バス移動中に弁当を提供するツアーだと、温かいものをタイでも食べられるのにと不満に思われることがある。
〇シンガポールでは懐石料理や旅館での部屋食などが魅力となるが、タイでは皆で複数の料理を注文してシェアすることが一般的であり、定食よりも好きなものだけお皿で頼みたいという人が多い印象。
(3)第3回研修(2020年11月上旬実施)
第2回研修後、職員が自らの派遣元の魅力を再認識し海外の旅行者を呼び込むための演習として、それぞれに観光フライヤーを作成し、JTBシンガポール及びバンコク支店のローカルスタッフの皆さんに評価いただきました。第3回研修では、その演習課題のフィードバックを行いました。
【講師コメントより】
〇行きたいと感じた人の多いフライヤーは写真が一定の役割を果たしている。綺麗な写真、美味しそうな写真(シズル感)はもとより、体験をしている写真(楽しそう、といった情緒的な面も伝わるような写真)が効果的である。
〇観光コースにおいて、体験プログラムは基本的にウケが良いが、より惹きつけるにはその地「ならでは」の体験を探して魅せることが欠かせない。既存のものに限らず、築地のセリなど、思ってもみないところから商品化するものもある。
〇食事も外せない訴求ポイントだが、郷土料理にこだわりすぎると満足度が下がる可能性があるので注意が必要。特にアジアでは経験よりも単純に美味しいものを求める傾向が高い。
〇スペック(何がある)よりも「何を得られるか」に力点を置いて、PRすべきである。
(4)第4回研修(2020年12月上旬実施)
第1~3回の研修を通じて職員から出た質問への回答を中心に、総括を行いました。
【講師コメントより】
〇自治体から旅行会社等への効果的なPR方法
→自治体がウリと思う点が相対的にどの程度すごいのかを把握してPRすること、FAMトリップでは実際の販売に繋がるように参加者選定などをよく相談することが推奨される。
〇観光地として主要でない地域への誘客のヒント
→長野県阿智村(日本一の星空)のように、あるものを磨いた上で誘客に繋がる仕組みを構築した事例がある。また、万人受けしなくとも、マニア受けするような何かを見つけ、次にどうすればターゲットに刺さるかというマーケティングをするやり方もある。
〇FIT(個人旅行客)に向けた対応
→旅行先で参加するオプショナルツアーのような、着地型サービスの充実が求められる。コンテンツがあるのであれば、ガイドや移動手段などを仕組化するほか、到着後のオンライン予約を可能にするなどの対応が考えられる。
研修に参加した職員からは、「地元の観光コンテンツをどの国にどう売り込むかを考える上で大変有意義な講義だった」、「フライヤー作成課題を通じて、現地の生の声が聞け、具体的にどういうものが受けるのかということが分かってよかった」といったコメントがありました。
新型コロナの感染拡大の影響で、世界的にもインバウンド市場は大幅に縮小している状況ですが、いずれマーケットが回復する際に備え、自治体と連携して日本各地の魅力を存分にPRできるよう、当事務所でも引き続き情報収集や職員の能力向上に努めてまいります。