クレアシンガポール事務所では、より自治体にとって有意義な現地情報を発信するため、マレーシアを拠点に活動している広告代理店とコラボし、自治体のインバウンド事例についてご紹介しています。今月号のテーマは、「東南アジアからの訪日旅行スタイルの多様性、変化」についてです。
Vecor Marketing PR Malaysia 金子 美穂
■急成長・変化する訪日東南アジア市場
2019年に日本を訪れた東南アジアからの旅行者のデータがJNTOより発表されました。(https://www.jnto.go.jp/jpn/news/press_releases/pdf/200117_monthly.pdf)
1位:タイ 1,319,000人(伸び率16.5%)※過去最高
2位:フィリピン 613,100人(伸び率21.7%)※過去最高、初めて60万人超え
3位:マレーシア 501,700人(伸び率7.1%) ※過去最高、初めて50万人超え
4位:ベトナム 495,100人(伸び率27.3%)※過去最高、初めて40万人超え
5位:シンガポール 492,300人(伸び率12.6%)※過去最高
6位:インドネシア 412,800人(伸び率4.0%) ※過去最高、初めて40万人超え
東南アジアからの訪日旅行客はいずれの国も過去最高人数となり、インドも含めると12.6%となり、欧米豪の13%とほぼ同じ割合になりました(東アジアからの訪日割合は70.1%)。割合だけでなく、2018年の訪日外国人1人あたりの旅行支出を見ると、中国の224,870円に迫る勢いで、ベトナムの188,276円、シンガポールの172,821円という消費額の高さが目立ってきており、そして年々、トレンドも変化してきています。(JNTO日本の観光統計データよりhttps://statistics.jnto.go.jp/)
■多様化・細分化する目的地や旅行スタイル
毎年トレンドが変わる東南アジア。ここ数年の新規就航路線の増加もあり、ますます訪日旅行の人気が高まっています。2018年にはベトナム(ハノイ・ダナン・ホーチミン)~関空便、タイ(バンコク)~成田・中部便、インドネシア(ジャカルタ)~中部便が就航。2019年にはベトナム(ハノイ・ダナン・ホーチミン)~東京(成田・羽田)便、マレーシア(クアラルンプール)~成田・福岡便、タイ(バンコク)~福岡・関空・仙台便、フィリピン(マニラ)~関空便が就航され、それに伴い、関西や福岡、東北への旅行先の分散化も見られました。
また、2019年にジェットスター・アジアがシンガポール~那覇便を増便したり、クアラルンプールから台北を経由した那覇便が就航開始となったり、沖縄にも注目が集まってきています。北海道や白川郷は相変わらず人気ですが、近年は三重県の「なばなの里」や長野の「地獄谷野猿公苑」、東北地方の蔵王や銀山温泉なども人気が高くなってきました。
また、お土産の購入場所もドラッグストア、ドン・キホーテ、コンビニエンスストア、商店街など、私たち日本人が普段行くような店舗での購入が当たり前になってきました。(数年前に弊社がフィリピンメディアの訪日取材を担当した際、メディアがドン・キホーテに行きたいと言ったことに驚きましたが、現在はどの旅行者もドン・キホーテを知っており、必ず行きたいと言います)
また、訪問先、買い物先だけでなく、日本での移動手段にも変化が見られ、シンガポールやマレーシア、タイではすでに何度も日本を訪れている層が一定数おり、都市圏以外の場所を旅行するにあたりセルフドライブを楽しむ機会が増えてきました。観光庁が発表した「道の駅」のインバウンド対応状況の現状と課題(http://www.mlit.go.jp/common/001280761.pdf)によると、訪日外国人の12%がレンタカーを利用し、訪日回数が6回~10回の層では21%にも上り、また、沖縄では訪日外国人の61%がレンタカーを利用しているとされています。
2019年のマレーシアの旅行博(MATTA)で、広島に旅行する予定だという中華系の女性に会いました。シンガポールからの乗り継ぎ便で広島に行くのかと尋ねたところ、クアラルンプール~福岡便が就航するので、福岡からセルフドライブで広島まで行く予定だと教えてくれました。シンガポールやタイからの訪日客の間でもセルフドライブはトレンドとなっており、旅行会社からは地域限定の鉄道パスやレンタカーを組み込んだパッケージも販売されています。
しかしながら、いわゆる観光地でないところに訪日客が増えるにあたり、外国語対応や決済対応(キャッシュレス決済)が不足しているなどの課題もあります。
■変化していく情報収集の方法
東南アジアではSNSを使った情報拡散、プロモーション活動が主流ですが、近年は使用する媒体や方法も少しずつ変化がみられるようになりました。タイでは相変わらずFacebookが人気ですが、肌感覚では、Instagramの人気も上がってきています。また、若者層はTikTokとTwitterも使い始め、特に2020年は動画とライブ配信がより増えると予想しています。
これまではフォロワー数を気にしてインフルエンサーを選定していましたが、近年は、きちんと作られた動画コンテンツをSNSでターゲティングして見せていくという方法が増えつつあります。そうすると、フォロワーの数ではなく、いかに魅力ある旅行動画を作れるか、という視点でインフルエンサーを選ぶように変わっていく必要があります。
マレーシアやシンガポールでも、写真投稿が中心だったInstagramで、動画投稿の割合が増えてきました。Instagramの利用者増と、動画がより一般的になってきたことが理由だと考えられます。シンガポールでは、Facebookは相変わらずメインストリームとして使用されていますが、マレーシアではFacebookとInstagramの使い方に違いがあり、Facebookは企業のHP機能、公式情報の発信、Instagramはカジュアルなシェア(共有)という使い分けになっています。
ベトナムでもFacebookは人気ですが、Instagramも使われるようになってきたほか、若者層の間ではベトナム発のSNS「ロータス(Lotus)」の使用も散見されます。
インドネシアでは、あまりにもプロモーションやタイアップと分かるようなSNS投稿は、嫌われる傾向が出てきました(インドネシアKOLの多くは富裕層であるため、必死にお金を稼いでいるように見られたくない、という表れです)。
これまでのフォロワー数重視のSNSプロモーションを見直し、コンテンツ重視や媒体重視(ターゲットによるSNS種類の使い分け)に切り替わるタイミングなのかもしれません。
■セールスコール先での変化について
最後に旅行会社からの変化についてお話しします。まだまだもちろん旅行会社は訪日旅行の情報を欲しいと考えているようですが、それは単純な観光地の情報ではなくなってきています。この1年、何件もの旅行会社からヒアリングしたところ、商品造成や送客に関する要望の多くは、下記のようなものでした。
・送客したらキックバック(インセンティブ)や補助金制度はあるか?
・紹介されたホテルは現在のツアーコースで使っているホテルより安くなるか?
・紹介された観光地を走るバスやホテル(ランドオペレーター)はどこが適切か?
・(テーマパークや水族館などに)何名入場させたらどれくらい割引があるか?
・ツアー販売にあたり広告費のサポートはあるか?
このような、具体的に「造成するメリット」「ランドオペレーター手配の方法」「サポート」などを聞かれるようになりました。2013年に、マレーシアやタイで訪日観光ビザが緩和された頃は、新しい観光地やホテル、レストランの情報を仕入れたり、ランドオペレーターからパッケージを購入したりしていたのですが、現在はすでに日本のほとんどの地域が組み込まれたツアーパッケージが出来上がっています。そしてそれを造成した際には、人気のありそうな観光地、自国の旅行者に受け入れられそうなレストランやホテル、そのコースを回れるバスなどの手配を行い、利益も計算して売り出していることでしょう。そのため、自治体や観光団体がセールスコールに「この観光地を入れてください」「お持ちした情報から何かを入れて新しくツアーを作ってください」と話しても、もはや造成には繋がりにくくなりました。
自治体や観光団体のセールスコールには、まず目標設定が必要です。目標が造成の場合、「KPIだから」ではなく「造成しないと来てくれない国だから」というように、なぜ造成が目標なのか説明ができることが重要です。造成を目標としたら、訪問する旅行会社が現在持っているツアーを学び、このコースなら新たにこの観光地、ホテル、レストランを提案しよう、その方が費用を下げることができ、購入されやすくなるだろう、という説得材料を持って「セールス」しに行くことが重要です。
東南アジアの旅行会社の中には、自社で造成は一切行わず、日本のランドオペレーターからツアーパッケージをまるっと購入しているところもあります。その場合、セールスコールが必要なのは、現地の旅行代理店ではなく、日本のランドオペレーションの会社だったりします。
現在は、あらゆる地域で、「セールスコール ⇒ 観光地紹介 ⇒ 造成 ⇒ 送客」というフェーズではなくなってきたのかもしれません。効果測定の方法も、商品造成数、送客数という数の多寡ではなく、どのような国の状況に対し、どのような目的(ブランディング、旅行会社への新プラン提案、MICE)で何を行ったか、現地の反応、旅行会社の反応はどうだったかなど定性的な内容で、検証する時期ではないでしょうか。
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クレア担当者の所感
ASEANからの訪日客の増加・観光目的・行き先の多様化については、自治体も実感しており、ツアー造成自体は空路やコストの関係で成立しにくい部分もあるものの、まずはFIT(個人海外旅行)をターゲットとした“旅先として知ってもらう”ためのプロモーションの展開が予定されています。
実際に旅行博で参加自治体からお話を伺うと、数年前に比べ日本へのリピーター層が増えたことにより、求められる水準も高まったと感じるそうです。
国によって旅のスタイルも様々で、例えばフィリピンにおいては大人数での家族旅行が主流なため、上の記事にあるとおり、レンタカー人気が高く、ツアーを造成してPRするレンタカー会社もあります。一方、鉄道会社の旅行博への出展も増えており、地域ごとのレールパス販売やラッピング車両で集客を行ったり、海外の旅行会社に対して、訪日旅行者向けの商品の手配業務等を行っている会社もあります。また、地方自治体が株式・資本を所有し観光地のPRを行っている株式会社もあり、客層のニーズに応じた様々なモデルコースが提案されています。
まだまだ伸びしろのある東南アジア市場において、日々刻々と変化していく訪日旅行PR方法の中から各自治体にとって最適解が見つかるよう、当事務所は引き続き訪日旅行市場の最前線を取材し、発信していきたいと思います。
クレアシンガポール事務所 所長補佐 吉岡 絵里奈(東京都より派遣)
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総合PR会社 株式会社ベクトル
〒107-0052 東京都港区赤坂4-15-1 赤坂ガーデンシティ18F
代表取締役 西江肇司
設立:1993年3月30日
資本金:2,195百万円(2018年8月31日現在)
連結社員数:約1300人
事業内容:PR企画立案及び実施/PR業務代行・コンサルティング/ブランディング業務/
IRコミュニケーション/キャスティング/リスクマネジメント業務/マーケティングリサーチ業務/
イベントの企画・実施/SNSコミュニケーション/マーケティング
海外支社:香港/上海/北京/深圳/韓国/台湾/インドネシア/ベトナム/マレーシア/タイ