シンガポールでは、「人材」は資源と言われるほど人材育成に力を入れています。今回は、シンガポールにおける人材育成の一例として、今年度訪問した高等専門学校「テマセク・ポリテクニック」ついてご紹介します。
シンガポールの中等教育終了後の一般的な進路としては、大学準備教育、専門教育、技能教育の3つのコースがあります。大学受験に必要な知識を身に付ける大学準備教育コース、工業技術や商業について実践レベルの知識を身に付ける専門教育コース、様々な資格を取得できる技能教育コースです。このうち、専門教育機関であるポリテクニックに進学する生徒は全体の52%(※1)です。
現在、専門教育機関としてシンガポール、ニーアン、テマセク、ナンヤン、リパブリックの5校のポリテクニックが設置されています(専門教育機関としてポリテクニックの他には芸術分野の専門校であるナンヤン芸術学院とラサール芸術学院が設置)。これらのポリテクニックは、実業界の需要に見合う内容、学生の生活面まで配慮するカリキュラム、実践重視の学習、経験豊富な教員による教育(※1)を特色としています。
テマセク・ポリテクニックでは、応用科学、ビジネス、デザイン、エンジニアリング、人間・社会科学、情報・ITを学ぶことができます。実際に校舎の一部を見学したところ、3Dプリンターや電子機器が充実している教室や、学生がデザインした洋服が並ぶ教室、誰でも弾けるピアノが置いてある廊下など、実践に根差した教育環境を垣間見ることができました。すれ違う学生の人種や身なりもさまざまで、多様性のある環境下で学習できることも実感しました。
訪問した中で興味深かったのが、デザイン学部の学生の発想力を向上させるためにAI技術を活用した取り組みがなされていたことです。AI技術を用いた機械が設置されている部屋があり、動物とイスという組み合わせや自分で描いた絵といったアイデアの素材をAIに提供すると、AIが素材を元に新しいデザインを複数生み出すことができるという仕組みになっていました。(※2)説明していただいた先生によると、AIをツールとして使うことで、学生はデザインの選択肢を増やすことができ、また創出されたデザインから発想を得てより良いデザインを生み出すことにもつながるということです。また、教える側も、学生がただAIに頼るだけの作品を作ることがないよう、個人の能力をどのように評価するかを考える機会が増え、教育の質の向上も図られるという説明もありました。
施設を訪問した中で、先生方がどのような教育を行っているかを熱心に説明されていたこと、また、海外からの学生の受け入れや交換留学など、外部との関わりにも積極的な姿勢がとても印象的でした。日本の学校との意見交換や施設訪問の依頼があれば、前向きに検討していただけるということですので、シンガポールの学校との交流に興味がある方は、テマセク・ポリテクニックも候補として検討してみてはいかがでしょうか。
(シンガポール事務所 所長補佐 黒岩 由佳)