【シンガポール事務所】中華系シンガポール人における方言グループとは

シンガポールのテレビ番組を見ていると、「私は福建系」、「自分は潮州系」な
ど、中華系シンガポール人同士でもお互いのルーツを紹介し合う場面を目にします。
 同国の民族構成比で約3/4を占める中華系ですが、その多くは福建省や広東省など
の中国東南部沿岸地域から移住してきた人々にルーツを持っています。福建語、潮
州語、広東語、客家語および海南語の方言グループに大きく分類され、それぞれ固
有のアイデンティティを形成しています。
 方言は、例えば、「陳」という姓をアルファベットで表記した場合、Chen(標準
中国語)、Tan(福建語、海南語)、Tan/Tang(潮州語)、Chan(広東語)、Chin(客家語)
とそれぞれ表記が異なるため、姓を通じてその人物の出身方言グループを知ること
も可能です。
 料理についても方言グループごとに特色が見られ、ホーカーセンター(屋台村)
内の店舗でも「海南料理」、「客家料理」などを冠した看板も多く、家族で出身地
方の郷土料理を楽しんでいる光景を目にします。
 しかしながら、シンガポール政府は中華系社会を一つにまとめるべく、「スピー
ク・マンダリン(標準中国語を話そう)」キャンペーンを1979年に展開して以来、
若い世代をはじめ各方言の話者数は急速に減少しつつあります。
 言語面での画一化が進む一方で、失われつつある各方言グループの文化を保存し
ていくための取り組みも行われています。その事例の一つとして、2017年に政府の
補助により「シンガポール華族文化センター(Singapore Chinese Cultural Centre)」
が設立されています。実際に筆者も同施設を訪問しましたが、方言グループごとの
歴史や食文化を中心とした展示物やワークショップを通じて中華系方言文化を学ぶ
ことができました。また、学生を対象にしたスクールツアーも多く企画されており、
次世代への文化継承に一役買っています。
 以上のように、中華系シンガポール人における方言グループについて紹介しまし
たが、このような背景を理解することが、シンガポールで施策を展開する上での一
助になれば幸いです。
                     シンガポール事務所所長補佐 木村                                               
<参考文献・引用文献>
・華僑・華人を知るための52章(山下清海 株式会社明石書店)
・シンガポール華族文化センター(Singapore Chinese Cultural Centre)ウェブサイト
 https://a16.hm-f.jp/cc.php?t=M704442&c=52219&d=a05a
・シンガポールの華人社会~華人会館と中国新移民社団を中心に~
 Clair Report No.439 ((一財)自治体国際化協会シンガポール事務所)
 https://a16.hm-f.jp/cc.php?t=M704443&c=52219&d=a05a