シンガポールは、アジア地域全体の脱炭素化を支援するため、「アジアの脱炭素
化への移行融資パートナーシップ(FAST-P)」に最大5億ドル(約768億円)を拠出
する方針を発表しました。この発表は2024年11月、アゼルバイジャンで開催された
国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29)の場で行われ、国際的にも大きな注目
を集めています。
FAST-Pでは、政府、民間企業、慈善団体が連携する「ブレンドファイナンス」と
いう複数の出資者から資金を調達することにより、リスクを分散させつつプロジェ
クトを実現する仕組みが取られ、再生可能エネルギー導入や省エネルギー技術の普
及、炭素排出削減を進めるプロジェクトを後押ししています。自国の地理的条件と
経済的役割を背景に、アジア地域のグリーンファイナンスや環境技術開発のハブと
して影響力を高め、地域全体の持続可能な成長に貢献することが期待されています。
NESTE社の視察で学ぶ再生可能燃料の可能性
フィンランドを拠点とするNESTE社は、廃棄物や副産物を原料に再生可能燃料を製
造する世界的リーダー企業です。シンガポールには同社の製造拠点があり、アジア
市場向けに年間120万トン以上の燃料を供給しています。今回シンガポール商工会議
所(JCCI)の主催で、NESTEシンガポールの施設見学をさせていただく機会があり、
同社が効率的なプロセスでクリーンエネルギーを生産している過程を学ぶと共に、
再生可能燃料が航空業界や重工業の脱炭素化にどのように貢献しているかを具体的
に理解することができました。
シンガポール政府は、航空部門の脱炭素化に向けて、2026年からチャンギ空港発
着のすべての国際便に持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel:以下SAF)
の利用を義務付けるとともに、乗客にSAF税を課す方針を明らかにしました。日本も
2030年までに国内航空業界で使用する燃料の10%をSAFに置き換える目標を掲げ、実
証実験が進行中です。特に「Fry to Fly Project」はユニークな取り組みで、廃食
用油を原料としたSAFの国内生産を目指し、地域コミュニティや企業が協力して原料
を回収するプロジェクトです。この取り組みは環境負荷削減だけでなく、地域経済
の活性化にも寄与するモデルとして注目されています。
SAFは化石燃料と比較して、ライフサイクル全体で最大90%のCO2削減が可能であり、
既存の航空エンジンにも対応可能な点が強みです。しかし、高コストや原料の安定
供給が課題であり、両国のような政策的支援が鍵となる一方で、地域資源を活用し
た地産地消型の取り組みは自治体でも実現できる可能性があるのではないかと感じ
ました。このような取り組みを通じて、自治体が世界規模の環境問題に貢献し、地
域活性化に寄与する道が開かれていると感じる貴重な機会となりました。
シンガポール事務所 所長補佐 小林
<参考文献・引用文献>
・JETRO「ビジネス短信」(2024年11月27日発)
シンガポール、アジアの脱炭素化に最大5億ドル拠出へ
https://a16.hm-f.jp/cc.php?t=M722975&c=52219&d=a05a
・Neste Singapore 社概要
https://a16.hm-f.jp/cc.php?t=M722976&c=52219&d=a05a
・民間航空庁(CAAS)による「持続可能な航空ハブ・ブループリント」
https://a16.hm-f.jp/cc.php?t=M722977&c=52219&d=a05a
・JETRO「ビジネス短信」(2024年2月27日発)
持続可能な航空ハブ・ブループリント発表、2026年からSAF導入開始
https://a16.hm-f.jp/cc.php?t=M722978&c=52219&d=a05a
・経済産業省資料
https://a16.hm-f.jp/cc.php?t=M722979&c=52219&d=a05a
・国土交通省資料
https://a16.hm-f.jp/cc.php?t=M722980&c=52219&d=a05a
・Fry to Fly Project 特設サイト
https://a16.hm-f.jp/cc.php?t=M722981&c=52219&d=a05a