仕事が終わって帰宅。湯船に浸かって1日の疲れを癒やす…。
日本人にはおなじみの光景かもしれませんが、シンガポールは違います。今回はシンガポールの 温泉・入浴事情をお伝えします。
高温多湿なシンガポールでは、「お風呂にゆっくり浸かって疲れを癒やす」 という文化はなく、シャワーを浴びて終わりというのが一般的です。そのため、 「バスタブなしでシャワーのみ」という部屋が多く、私の住むコンドミニアムもシャワールームだけです。湯船を使わない理由としては、生活習慣の違いもあるでしょうが、国の面積が狭いうえ、高い山を持たず、地下水も期待できないシンガポールは、元来水資源に乏しく、水の多くをお隣のマレーシアから輸入するなど、水が非常に貴 重であるということも挙げられます。
そんなシンガポールを含む東南アジアの方々の「温泉」への興味はどのような ものなのでしょう?
日本の重要な観光資源のひとつである「温泉」について、株式会社日本政策投資銀行及び公益財団法人日本交通公社の調査によると、訪日外国人旅行者が 「訪日旅行で体験したいこと」で「温泉への入浴」と回答(複数選択可)した方が、シンガポール・タイ・マレーシア・インドネシアで50%を超えており、また、訪日旅行希望者のうち、「温泉・大浴場への入浴意欲」は、「是非入浴 したい」又は「水着など体を覆うものがあれば入浴したい」と回答(1つのみ) した方が、同じ4か国で70~80%でした。
そんなシンガポールで、2016年5月に同国初の日本式温浴施設「湯の森温泉&スパ」がオープンしました。5種類の風呂と2種類のサウナのほか、タイ古式マッサージやアロマオイルマッサージも楽しめ、カフェも併設されています。料金は入浴だけで大人がS$38(約3,040円)、子どもと65歳以上はS$28(約2,240円) と日本よりは少々お高めですが、浴衣も用意されており、日本の入浴文化を随所に楽しめる施設になっています。シンガポールで初の温浴施設となるため、温泉未体験の人のために様々な工夫がされています。裸で入浴することを懸念する人のために、入浴用の下着が用意されていたり、「浴室内は小さなタオルのみ」や「浴槽に入る前に、かかり湯を忘れずに」といった入浴方法や浴衣の着方などの説明も細かく表示されていたりします。
2019年のラグビー・ワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催も控え、訪日外国人観光客の誘客拡大、受入れ環境の整備にオールジャパンで取り組んでいるところです。
しかしながら、温泉・入浴事情に関して言えば、「水着の着用不可」や「タト ゥーお断り」など、もてなす側が乗り越えなければならない問題があります。東南アジアにおける富裕層・中間層の増加、日本へのビザ申請の規制緩和など の要因から、ムスリム観光客が増加し、一部のレストランや温泉では、ムスリムに対応したサービスの整備を進める動きが活発化しています。 また、民族伝統の入れ墨やファッションタトゥーなど、タトゥーが一般的な外 国人観光客の増加により、日本の温浴施設も対応に乗り出しているところです。異文化理解か、風紀維持か、”おもてなし”の真価が問われています。
ところで、温泉地が有名な自治体の観光PR映像やパンフレットの中で”お湯 に浸かった女性が肩から上の部分を出している”シーンをよく目にしますが、イスラム教では戒律としてタブーな光景です。イスラム圏での観光PRの際は十分に注意する必要があります。
(シンガポール事務所所長補佐 能村)