シンガポールでは、都市開発の影響で1970年代に野生のカワウソは絶滅したと 考えられていました。しかし、その後の自然環境保全の取組により、マレーシ アから渡ってきたカワウソが住み着いたとみられ、現在では60匹以上のカワウソが観察されています。シンガポール人のカワウソ愛は大変なものです。公園を管轄する政府機関NParks や、上下水道を管轄するPUB、シンガポール動物園やシンガポール国立大学、そ して動物愛護NPO等のメンバーからなるボランティアグループ「Otter Working Group(OWG)」が組織されているほか、フェイスブック上に「Otter Watch」というアカウントが開設され、毎日多くの「いいね!」を集めています。カワウソ 熱の高まりのためか、2016年の第13回国際カワウソ会議もシンガポールで開催 されました。そのようなカワウソ愛の強いシンガポールにおいて、今年10月に大きなニュー スが報道されました。今年2月に生まれた野生のカワウソの赤ちゃんであるアクエリアスが、胴体に金 属の輪のようなものが巻き付いて、体をひどく傷つけているのが発見されたというのです。 このことを受け、OWGによる「Project Free Aquarius(アクエリアスを救えプ ロジェクト)」を発足させました。プロジェクトメンバーは、3週間アクエリア スを捕獲しようと努力しましたが、群れの仲間に守られているアクエリアスを 捕獲するのは難しく、多くのシンガポール人をやきもきさせました。11月15日、ついにアクエリアスの捕獲に成功し、シンガポール動物園の獣医によって体に巻き付いていた輪(金属と思われていましたがゴムだったことがわ かりました)が取り外され、消毒等の処置を行うことができました。処置後のアクエリアスは、弱々しい様子で去っていきましたが、次の日、元気に群れの 仲間と行動している様子が観察されています。救出の様子を撮影した動画は、早速Otter Watchに投稿され、10万回以上再生されています。「We count every otter because every otter counts(すべてのカワウソが重 要だから、私たちはカワウソの数を数え続けます)」という言葉がOtter Watch に投稿されています。
シンガポールは高度に発展し、人間にとって住みやすい 都市ですが、それだけでなくそこに住む動物も大事に見守る政府と住民の存在が、シンガポールをより魅力的な都市にしていると感じました。
(シンガポール事務所所長補佐 杉田)