英国の民間シンクタンクによると、シンガポールは世界一犯罪率が低く、安全な国と言われています。実際に女性が夜に一人で歩いていても不安はなく、安心して住むことができます。その背景には、規則や罰則など政府が治安の維持 に力を入れていることももちろんですが、日本を手本にした「交番制度」が一役買っています。
少し古い話になりますが、高度経済成長と急速な都市化が進んだ1980年頃、シンガポールでは社会環境が悪化するとともに、犯罪件数も増加していました。そこで、シンガポール政府が注目したのが日本の「交番制度」です。1981年よ り、JICAの協力のもと、交番設立のために専門家の受入れや実務研修などの技術協力を受け、1983年に交番(Neighborhood Police Post(NPP))が開設されました。このNPPの設置により犯罪件数が顕著に減ったほか、警察が地域住民に サービスする組織へと変貌し、警察官と地域住民との信頼・協力関係が確立して現在に至っています。
交番制度がシンガポールに速やかに根付いたのは、政府がHDB住宅(※)の1階など住民のアクセスのよいところに次々と交番を設置するなど、日本の交番制度を基に、シンガポールの文化、風習、環境に合うように改良したことが大き な理由です。また、近年ではNPPの増設に伴い拡大するコストを削減するため、最新のテクノロジーを活用した24時間対応の無人交番を設置するなど、さらに独自に発展させています。
現在、シンガポールは日本とともに、開発途上国の警察関係者を対象に研修を実施しており、日本の交番制度をどのように自国に適合・進化させていったのかについて、講義や視察を通して参加者に伝えています。そして、交番制度に とどまらず、水道や都市計画などでも同様に戦略的な取り組みを行っています。
国土、国民、資源を多く持たない小国のシンガポールは、世界の高水準なシステムや技術を集め、それに自国の経験を加えて付加価値を高めた上で第三国に提供していくことによって、シンガポールのプレゼンスを高めるとともに、そ れを安定した経済成長に結びつけているのです。
(※)シンガポール国民の多くが居住する公営住宅
(シンガポール事務所所長補佐 佐々木)