インドネシアを訪れると、草花や鳥の模様等で彩られた美しいバティックを身にまとった人々を行く先々で見かけます。バティックは、インドネシア・マレー シアを代表する伝統染織品であると同時にフォーマルウェアでもあり、政治やビジネスの場面をはじめ、日常的に幅広く着用されています。インドネシアの王宮で発展し、当初は高貴な身分の方しか着ることが許されなかった希少なものでしたが、時を経て一般にも広がり、今や国民に愛される伝統衣装になって います。元々はインド発祥の更紗(さらさ)の文様ですが、インドネシアのバティックはオリジナルの染色方法を用いることで独自の進化を遂げ、日本では 「ジャワ更紗」として知られています。2009年には、ユネスコの無形文化遺産に認定されるほど高い技術や芸術性が認められ、非常に価値の高い染織品です。
13,000を超える島々からなるインドネシアは、多様な文化、民族、宗教の人々が共存しており、「多様性の中の統一」が国是となっています。そのため、政府もバティックの積極的な着用を呼びかけており、バティックはインドネシアのアイデンティティの確立や国民に一体感を生み出すことにも一役買っているようです。ちなみに、金曜日はバティックを着る日となっているそうで、それはバティック市場の拡大を呼び込み、地場産業振興という観点からも興味深い取組といえます。
このバティック、着用してみると大変着心地もよく、暑い南国の気候風土に合う機能的な衣料品であるということが分かります。同様に、南国のフォーマルウェアとして知られているものに沖縄の「かりゆし」やハワイの「アロハシャ ツ」などが挙げられるでしょう。いずれも、気候風土に合った機能性と快適さを兼ね備え、地域への愛着と誇りを育み、地場産業の振興に寄与しています。
今年、日本列島は記録的な猛暑に見舞われ、スーツに革靴スタイルの多くの社会人にとって過酷な環境であったことは想像に難くありません。もし、そのために必要以上に冷房の温度を下げていたとしたらどうでしょう?人にも環境にも優しい国とは言えないのではないでしょうか。日本で一般的に着用されている洋服は、もともと西洋から伝来したものです。各地域の気候風土に合った文化的正装を提案し奨励することにより、地域や文化を愛する人材が育ち、エコフレンドリーで地場産業も潤うような社会が実現するかもしれません。インド ネシアのバティックにまつわる取組から日本の自治体が学べる点が大いにありそうです。
シンガポール事務所 次長 渡邊