2019年2月には首都マニラで国内初の地下鉄の建設工事が始まるなど、交通
インフラの改善の兆しがみられるフィリピンですが、今回は同国の古き良き公
共交通機関について紹介します。
フィリピンの街を歩けば、乗用車やタクシー、長距離バスに混ざって日本の
デコトラを連想させる、メタリックでカラフルな外装が特徴的な、大きな車両
が何台も往来する姿を目にします。これがフィリピンでは一般的な乗合バス
「ジプニー」であり、初乗り概ね20ペソ(約45円)の手頃な料金で利用できる
庶民の交通手段です。乗客はドアのついていない車両後部から乗り降りし、運
転席から遠い席に座った乗客は、運賃を他の乗客にリレーしてもらい、ドライ
バーに支払います。元々は第二次世界大戦後に不用となったアメリカ軍のジー
プを転用したものでしたが、現在のジプニーは中古のディーゼル車に、フィリ
ピン国内でジープに似せて造られたボディを組み合わせたものです。自国の自
動車メーカーがないフィリピンにとって、自国内でボディを組み上げるジプニ
ーこそが国産車であり、「the King of the Road」の愛称で多くの国民に親し
まれています。
フィリピンの象徴ともいえるジプニーですが、そのほとんどが日本を含む各
国の排出ガス規制前のディーゼルエンジンを搭載しているため、深刻な大気汚
染の原因の一つとなっています。この問題への対策として、フィリピン政府は
2018年1月に老朽化したジプニーの更新等を内容とする公共交通車両(PUV)
近代化プログラムを導入しました。新型車両の導入は着実に進められており、
都市部では日本の自動車メーカーも新型ジプニー用の車両を開発し、納入の実
績を上げています。しかし一方で、政府の当該プログラム実施のための予算は
十分ではなく、事業者への補償をめぐり、事業者から政府に対し不満の声が挙
がっています。車両の買い替えの場合、8万ペソ(約17万円)が政府から事業
者に助成されますが、買い替えには150万ペソ(約330万円)から180万ペソ
(約400万円)の費用がかかり、収入が多いとは言えない多くのジプニー事業
者にとって政府からの助成は十分ではないためです。
このような問題を抱えつつも、現在のところ政府は15年以上使用した車両を
2020年までに排除する方針を変更しておらず、古き良きジプニーを見かけなく
なる日はそう遠くないかもしれません。
シンガポール事務所 所長補佐 岩田