人口2億5,871万人(2017年推計値)で世界4位、GDPも毎年5%前後の成長
を続け、重要なマーケットのひとつとして世界でも存在感を増しているインド
ネシア。その中でも人口は1,000万人を超え、一人当たりGDPも約1億9,500万ル
ピア(2015年、約150万円)とインドネシアの他都市と比べて高いのが、首都
であるジャカルタ特別市です。インドネシアの中心であるジャカルタを、出張
等で訪れる機会のある人も多いのではないでしょうか。
ジャカルタには様々なランドマークがありますが、実際に訪れた際、最も印象
に残るのは何でしょう?市の中心部にそびえたつ独立記念塔でしょうか?東南
アジア最大と言われるモスクでしょうか?どれも印象的ですが、実際にジャカ
ルタを訪れた人から帰ってくる答えの一つに、交通渋滞が含まれるのは間違い
ありません。今日はそんなジャカルタの交通渋滞事情について触れたいと思い
ます。
ジャカルタ市内の交通渋滞は世界的に見てもひどく、大渋滞にはまってしま
うとなかなか身動きが取れません。運転手一人当たりの停発車回数(年間)は
33,240回で世界最多かつ、運転していない時間の割合は27%にものぼり(2015
年調べ)、交通渋滞による経済損失額は年間100兆ルピア(約7,800億円)であ
るとも試算されています。
そんな状況を政府も黙って見ているわけではなく、これまでも色々な政策を
打ち出し、試行錯誤を重ねてきました。1992年にはラッシュ時に主要道路への
乗員3人未満の車両乗り入れを規制する「3イン1」制度を導入しました。
しかしこの制度は、規制区域前で数合わせとしてチップと引き換えに自動車に
乗り込む「ジョッキー」と呼ばれる人が続出し、形骸化したため2016年に撤廃
されました。その後2018年1月にはジャカルタ中心部とスカルノ・ハッタ国際
空港を結ぶ空港鉄道(レールリンク)が開業し、慢性的な渋滞で所要時間の読
めないバスやタクシーの代替として期待されましたが、高い運賃等の理由で利
用者数は伸び悩んでいます。また、2018年8月に開催されたアジア競技大会に
あわせて強化された、車両ナンバーによる乗入規制(ナンバープレート末尾が
偶数か奇数かで特定区域への通行が一日おきに禁止されるもの。制度自体は
2016年に導入)については、一時的な移動時間の短縮に効果はありましたが、
「自家用車の利用者はいずれ規制を逃れる方法を見つけ出す」と政府高官が話
すなど、規制の効果がいつまで続くか懐疑的な見方が広がっています。
そんな中、3月末に悲願ともいえるインドネシア初の地下鉄である大量高速
交通システム(MRT)がジャカルタで開業しました。開業にあたっては日本が
全面的に支援しており、約1,200億円の円借款を供与し、車両も日本で新造
しています。ジャカルタ中心部を南北に走り、全区間15.7kmを結ぶこのMRTが、
ジャカルタの渋滞を緩和するための救世主となれるのか、期待が集まっていま
す。市民が気軽に乗れる運賃で運行が出来るか、またほかの公共交通機関との
スムーズな乗り換えを実現できるのか、課題は色々とありますが、これからジ
ャカルタの交通事情がどうなっていくのか要注目です。
シンガポール事務所 所長補佐 永原