多民族、多宗教のシンガポールでは、冠婚葬祭事情も様々、それぞれの宗教
や伝統文化を尊重したものになっています。民族構成は、主に中華系74%、マ
レー系13%、インド系9%で、宗教別では、仏教・道教43%、キリスト教18%、
イスラム教14%、ヒンズー教5%、その他となっています。宗教ごとにセレモニ
ーも異なりますが、今回は大多数を占める中華系の結婚式と葬式のスタイルに
ついて、ご紹介します。
シンガポールも少子化・晩婚化は日本と同様ですが、結納などの儀式はなく、
ブライダル事業者も少ないのが現状です。中華系はホテルで結婚式を行うのが
一般的ですが、マレー系などは、HDBと呼ばれる公共住宅の多目的スペースで
よく行います。また、式より、フォトジェニックな場所での記念撮影にお金を
かけるカップルが多いのも最近のトレンドです。
一方、中華系(仏教)の葬式にも独特の文化があります。日本の葬祭場のよ
うな専門施設は少なく、自宅や、HDBの屋外スペースなどにテントを張って、
3日から1週間に渡り、通夜と葬式が行われるのが一般的です。室内には白い
天幕や金色の派手な装飾もあり、時折ドラムなどが鳴り響いて、お祭りのよう
な賑やかさがあります。式後は、円卓を囲んで、酒やブッフェ形式の食事で飲
み食いしながら、故人を偲びます。また、喪服はなく、親族は白いTシャツなど
を着用するのがマナーとされ、参列者もカジュアルな装いが一般的です。
国土の狭いシンガポールでは、埋葬においても、土葬が義務付けられている
宗教に配慮しつつ、土地を有効活用するための特別な政策があります。シンガ
ポール国家環境庁が墓地の管理を行っており、埋葬所を1カ所に制限し、1998
年に埋葬期間期限を15年に設定しました。期限が来ると、埋葬された遺体は順
次掘り起こされ、火葬処理することになっています。また、故人の信仰した宗
教を尊重し、骨壺に収めて別な墓地に移される場合もあります。
さらに、多くの墓地の撤去と並行して、地下の活用で、2007年に地下埋葬シ
ステムを導入しました。これは、土葬が義務付けられるイスラム教徒などに配
慮したもので、政府は様々な宗教団体から承認を取り付け、宗教的信念の尊重
と土地の有効活用、土壌の侵食防止や景観を確保する立場から、導入に至りま
した。 ちなみに、日本人墓地公園は、墓地を接収されたものの、陳情により
リースでの存続が許可され、現在は日本人会管理の下、憩いの場として親しま
れています。
多民族国家として、狭い国土をいかに活用するか、また、多文化の中で生じ
る様々な問題の解決は、シンガポールが抱える大きな課題でもあります。
シンガポール事務所 所長補佐 本田