シンガポールの選挙制度では、選挙人の投票は義務とされています。
海外勤務、海外留学、海外旅行、病気や出産などのしかるべき理由がなく、投票に行かなかった場合は、選挙人名簿から名前が抹消され選挙権がはく奪されます。選挙人名簿への再登録が可能ですが、正当な理由のない棄権の場合はS$50の手数料が必要となります。また、法律により平日の投票日は国民の休日となり、投票に行く機会が確保されます。
そのため、シンガポールの投票率は日本では考えられないほど高く、2015年の総選挙では93.56パーセント、2011年の総選挙では93.18パーセントでした。
そのような選挙制度のもと、2021年4月までに次期総選挙が実施される予定ですが、関係者や専門家の間では、今年2020年に選挙が実施されるとの見方が有力です。総選挙後はリー・シェンロン首相が退任し、次世代指導者の新体制に移行するとみられています。
過去の首相決定の経緯からも、通常シンガポールの政治における世代交代は、旧世代による新世代の選抜・登用・育成、新世代間でのコンセンサス形成と指導者の決定というプロセスを経ることから、2019年5月にヘン・スイキャット財務相が副首相に昇格したことで、ヘン氏が次期首相有力候補となりました。次期政権は、新首相を中心とした集団指導体制としての性格が強いと考えられています。
また、選挙によりリー首相が退任することとなったとしても、歴代首相同様、上級相や顧問相として閣内に留任し、新首相と新世代内閣を後見する可能性があると専門家はみています。
シンガポールを取り巻く国内外の情勢は複雑化しており、特に国内では国民の意見が多様化し論争が起こりやすい状態で、国家と国民の間の信頼関係を強化することが求められています。
国家と国民の距離が極めて近い、都市国家シンガポールでは、首相交代は国家運営にも、国民の生活にも非常に大きな影響を与えます。やがて実施される総選挙、そして首相交代から今後も目が離せません。
シンガポール事務所 所長補佐 田名邉