国土が狭く水資源の乏しいシンガポールでは、1965年の独立以降、マレーシアからの輸入水に頼るなど水の確保が大きな課題でした。2061年には、マレーシアからの水の輸入について取り決めた協定が期限を迎えることから、シンガポール政府は、水の自給に向けて、下水高度処理と海水淡水化の実用化に力を入れて取り組んできました。特に、2003年に供給が開始された下水再生水(NEWater)は、現在5か所の製造工場が稼働し、既に国内水需要の約40%を占めるまでになりましたが、政府は2060年までにこの割合を55%まで引き上げる目標を掲げています。
NEWaterとは、下水処理場で通常の処理が終了した水に、更に3段階の浄化処理を施し、飲用可能な水準まで高度処理した再利用水で、工業用水のほか家庭用水としても利用されています。家庭用には、乾季の間にNEWaterを貯水池に放水し、雨水などと混ぜ合わせて通常の飲用水処理工程を経て、水道水として供給されます。
シンガポールの水道水はWHOの飲用水の基準をクリアしており、アジアでは珍しく安全に飲むことができると言われています。日本と同じ軟水で、直接飲んでもあまり違和感がなく、個人的には塩素臭さがない分、東京の水道水より飲みやすく感じます。シンガポールにお越しの際は、是非、水道水の味を確かめてみてください。
シンガポールは現在、世界の水処理関係の企業や研究機関が集まり、水処理技術に関する世界最先端の研究開発拠点になっています。世界ではアジアを中心に、高い経済成長や人口増加を背景に水需要が増加し、水の供給不足が深刻化しており、水の安定供給に向けた水ビジネスへの関心はますます高まることが予想されます。水の安定供給に向けた高い技術とノウハウを持つシンガポールが、世界の水ビジネスをどのようにリードしていくのか、今後も注目していきたいと思います。
シンガポール事務所所長補佐 茂木