シンガポールは、2010年のマリーナベイ・サンズおよびリゾートワールド・セントーサの2大IR施設の開業をはじめ、さまざまな観光資源の開発により、訪問客数および観光収入を右肩上がりに伸ばしてきました。しかしながら、各国同様に観光業界はコロナ禍によって深刻な状況下にあります。同国への2020年9月の訪問者数は約9,500人であり、前年同月の約146万人と比較して、99.4%の減となっています。
シンガポール政府は、融資や固定資産税の割戻などの支援や観光開発基金の強化により、観光業界を支援してきましたが、7月より4,500万シンガポールドル(約34億8,840万円。以下、ドル)を投じ、「SingapoRediscovers」というキャンペーンを展開しています。このキャンペーンは、シンガポールに住む人々がシンガポールを再発見することをコンセプトとしており、観光業界と協同してローカルツアーなど、200以上の商品を提供しています。
さらに、同キャンペーンの一環として3億2,000万ドル(約248億640万円)を投じたバウチャーが国民に配布されることが決定されました。18歳以上の国民一人当たりに100ドル相当のバウチャーが12月からオンラインで配布されます。利用期間は2021年6月までで、10ドル単位で使用することができ、国内のホテル宿泊やアトラクション入場料、ローカルツアーなどに利用することができます。また、18歳以上の国民は、18歳未満の者のために、アトラクションやツアーに対して10ドル割り引かれたチケットを最大6枚まで購入できます。
このように国内旅行を喚起することで、観光業界の回復を支援しているシンガポールですが、シンガポール政府観光局のキース・タン局長は、過去最高の1,910万人を記録した2019年と同程度まで海外からの訪問者数が回復するには3年から5年かかるとの厳しい見方を示しています。同氏は、アフターコロナの時代では、小規模で他にはない体験を観光業界が提供することで、シンガポールを他国と差別化させることが重要であると述べています。
観光業を基幹産業にまで成長させたシンガポールが、どのようにコロナ禍を乗り越えていくのか、今後も注目していきます。
シンガポール事務所所長補佐 藤井