シンガポール国内には100か所以上の屋台村・ホーカーセンターが存在し、「大衆食堂」という愛称で親しまれています。中華、マレー、インドなど多様な料理が提供されているホーカーは、現地住民の生活に根差しています。2020年には、多文化国家の形成に貢献しているという観点から、シンガポールのホーカー文化がユネスコの無形文化遺産に登録されました。
そのようなホーカーですが、近年深刻な後継者不足に直面しています。多くのシンガポール人、特に若者は現代的なおしゃれなお店を好むといわれており、店主の高齢化が進んでいる状況で、店主の熟練の技術や伝統を次世代の若者たちに継承するため、政府はさまざまな施策を実施しています。
まずは、環境庁とSkills Future Singapore(成人国民向けの再教育・職業訓練を目的とした法定組織)が共同で実施している「Hawkers’ Development Programme」です。ホーカーとして起業したい人が、研修生として実習を含む3つの段階を経て卒業し、屋台を運営するにあたって必要なノウハウを身に着けるプログラムです。実習では、経験豊富なホーカーで2か月間修行を積むことになっています。プログラム卒業後は、起業するにあたって、政府が一定期間屋台を格安で提供する事業も用意されています。提供される屋台には関連設備が完備されているため、起業者が初期投資を抑えることができます。
また、若いホーカー店主を育成するための事業が2021年1月に新設されました。当事業の対象者は国内の専門学校や技術学校の新卒者に限られていますが、12か月間に講義、実習、インターンを実施することになっており、期間中研修生は月1,000シンガポールドル(約80,000円)の手当を受け取ることになっています。
このように、政府はホーカー文化を次世代に継承していくために、幅広く取り組んでいます。筆者個人もホーカーを大変気に入っており、シンガポールらしさを感じられるホーカーの雰囲気がこれからも残っていくことを願います。
シンガポール事務所 所長補佐 藤井(昭)