小さな都市国家であるシンガポールにとって、水の確保は重要な課題のひとつとなっています。1965年にマレーシアから独立した当時、水の供給源は「国内での集水」と「隣国マレーシアからの輸入」のみでした。しかしながら、国土が小さいシンガポールでは増加し続ける水需要を満たすだけの集水・貯水能力がなく、マレーシアからの輸入も、将来にわたって輸入量を確保し続ける保証ができないという大きな問題に直面することとなりました。この問題を解決するため、シンガポールは「4つの水道」政策によって水の確保を図っています。
「4つの水道」は、シンガポールの4つの水の供給源を指しています。第1、第2の水道は前述した「国内での集水」と「マレーシアからの輸入」です。これらに加え新たな水の供給源となっているのが、第3の水道「新生水(ニューウォーター)」と第4の水道「脱塩水」です。本稿では、特に新生水について紹介します。
新生水とは、生活排水や工場からの廃水を処理した再生水です。集められた廃水は、水再生センターでの浄化処理の後、新生水工場にて精密ろ過や限外ろ過、逆浸透、紫外線消毒といった工程を経て、WHOの飲料水基準を優に満たす新生水に生まれ変わります。新生水の9割以上は、純度の高い水を必要とする工場や産業施設で使用され、残りの数%は貯水池の水と混合され、通常の飲料水処理を経て各家庭に届けられます。
再生水の飲用利用には、安全面以外にも利用者の心理的問題という課題が発生します。新生水への心理的抵抗を低減するため、政府は新生水の発表当初より、当時のゴー・チョクトン首相をはじめとする政府高官による飲用や、学校での講演、実際に稼働している新生水工場のひとつである「ニューウォーター・ビジター・センター」での、ツアー等を実施しています。
シンガポールは、現在マレーシアとの水輸入にかかる契約が終わる2061年までに第1、3、4の水道で水の完全自給の確立を目指しています。新生水は2060年には国内の水需要の55%を賄うと見込まれ、シンガポールの水政策の柱となっています。
シンガポール事務所 所長補佐 中田